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些細な動作ですら玲慧は目を惹く。
……暇潰しなら他を当たった方がいいんじゃないのか。
不愛想な俺と遊ぶよりもその方が充実した時間を過ごせるし、玲慧の容姿なら引く手数多だろう。
玲慧の目的がなんであろうとどうでもいいが、際立った容姿が多少の不信感を抱かせる。失って困るものは、帰りの飛行機の手続きに必要な事項を保存したスマホとあいつから預かったカードくらいだが……ああ、もうどうでもいいや。
気怠い身体を取り巻く疲労感が思考を鈍らせ、面倒になって放棄する。ひとまずスマホだけは死守すれば家には帰れる。それだけ覚えていればいい。後はその時に考えよう。
「そんな顔をしてたら、悪戯しちゃうよ」
「ん?ああ……悪い」
どうやら無意識の内に玲慧の顔をじっと見つめてしまっていたらしい。謝りながら目を逸らす。
「安心してよ。斯乃が元彼から貰った慰謝料盗んでも、俺が使うだけとか興味ないし、そもそも気分萎えちゃうし。楽しくないこと嫌いなんだよね」
お前はエスパーか。
それに、間違ってはいないが何故元カノではなく元彼と、男と限定しているのか。ゲイ同士だとなんとなく察する事はあるが、玲慧はゲイには見えないが……バイだろうか。
たが、玲慧は随分と機微に敏いようだ。俺が分かり易いだけの可能性もあるが、なんとなく玲慧は前者のような気がした。
「楽しくないこと嫌いなら俺と遊ぶのは時間の無駄じゃないか?俺はお前に優しくなんてしないし、愛想も売らないから」
とにかく疲れているし、なにもかもがどうでもいい。気が付けば考えてしまうあの野郎の事から気を逸らしてくれるのはありがたいが。
何故か玲慧は穏やかに目を細めると、満足気な微笑みを浮かべる。甘い表情の不意打ちに、鼓動が跳ねる。
「十分楽しいし、斯乃も可愛いよ」
躊躇いもなく返ってきた言葉に、眉を顰める。慣れているなと、感慨もなく思う。玲慧の本心を疑っているわけではないが、上手く回る舌だと感心してしまう。
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