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「斯乃の宿泊先って何処?」
「ああ……すぐそこのアレ」
後ろを振り返り、目線を上げる。ガードレール先に聳え立つ高層ホテルを指差す。搭乗前の暇つぶしにスマホでおざなりに調べた程度で詳しくは知らないが、何処かの有名なグループの系列ホテルらしく、評判も良さそうだった。
……予想よりも立派だったホテルはあの野郎にとっての誠意だったかは知らないが、憎しみと怒りしか湧かない。
顔が歪んでいくのを感じながら、思わず舌打ちしそうになった時だ。
「ほら、行こう」
「おい……っ!」
突然手を取られたかと思うと、強引に手を引かれる。驚いて声を上げるが、すぐにホテルに向かっている事に気づいて大人しく手を引かれる事にした。
気付かない内に俺のスーツケースを玲慧が運んでくれていて、俺の手を引きながら決して軽くはないだろうにもう片方の手で持っており、汗臭さに縁がなさそうな見た目に反して力があるようだった。
握られた手に伝わってくる玲慧の手は温かく、細く長い白い手は意外にも厚みもあり、骨ばった感触はない。だが、記憶にある感触よりも柔らかく、あいつはもっと……。そこまで考えてはっと我に返る。
……最悪だ。
まざまざと脳裏に蘇りそうになる記憶に蓋をするように、瞼を閉じる。胸を焼くような痛みが不愉快で堪らなかった。
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