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段差の低い階段を上ると、道路を挟んだ先にホテルはある。南国を思わせるようなヤシの木がある玄関口にはタクシーでやってきた客を出迎えているホテルマンの姿があり、横を通り過ぎた際には俺達にも恭しく頭を下げて挨拶を告げてくれた。
ホテルのロビーは広々としており、暖色を基調とした控えめでいて、華やかな雰囲気のある内装をしていた。
ダウンライトが照らしている高い天井は、一部がボードの木造になっており、太い支柱が支えている。床には霞みと梅の模様が描かれた豪奢なイエローゴールドの絨毯が敷かれており、一見派手だが、全体を通して見ると落ち着いた内装を装飾する鮮やかな存在に思えた。
設えられたソファーには寛ぐ宿泊客の姿もあり、楽し気に談笑する煌びやかな表情が心を抉るようですぐに目を逸らした。
中央奥にあるフロントは広く、黒髪を綺麗に纏め、にこやかな笑みを浮かべて一寸の乱れのない清楚なフロントマン女性が等間隔に並んで立っている。
振り返れば、ガラス窓から海が見渡らせる構造になっており、さっきまでいたビーチがある。
「このホテルのおすすめは貸切露天風呂だよ。モチーフの違うお風呂が参の湯まであって、そこから見える夜景も綺麗だよ」
「詳しいんだな」
「俺もここに泊まってるんだ。そろそろ誰かとお風呂で寛ぎながら煌びやかな夜景を見つめたいなと思ってたから楽しみだな」
納得するが、勘違いでなければ、何故か一緒に入る事が決まっているかのような口調だ。今日知り合ったばかりの関係で風呂まで共にするのは、自暴自棄になっていても流石に抵抗がある。
一緒に入らないぞという拒絶も含めて、無言で返した。
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