1.始まり………

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最初は画面ごしの出来事を他人事として楽しんでいた俺だが………… やがて訪れるは、 それが間違いなく現実だと 俺に教えてくれる――――。 その日、以来―――――― 母親(ババァ)(メシ)を持って来なくなった。 いつもはノックの音と共に、ドアの近くに置かれている筈の食事が……… 『赤い虹』を境に、全く用意されなくなってしまったのだ。 (いつもは鬱陶しい位、部屋の様子を覗き込んで来る癖に…………、 何で、来ねぇんだよ―――!?) 俺に愛想を尽かして、 とうとう見捨てたのではないか―――――? そんな思いが(よぎ)り、一瞬、ゾクッとした。 だが、あの過干渉なババァに限って、 流石に、それはないだろう。 だとするなら、あの『(ワームズ)』が原因と見なした方が自然なように思えた。 俺に無関心な父親(ジジィ)の、能面顔も見なくて済む。 俺は束の間、一城(いちじょう)(あるじ)として、堂々と居間で(くつろ)いでいた。久々に自分の部屋を出る。 誰も居ない家は実に快適だった。 ソファーでダラダラ寝転んでいても、もう 誰も俺に注意しない。 狭い家なのに、不思議と天井が広く感じる。 チクタクと、壁時計の音だけが響く。 俺の静止した世界の中で、その音だけが時間を刻んでいた。 (………ババァ、本当に死んだのか………? ――――――ざまぁ……………) 未だ現実感が湧かないまま……… TVだけが大仰に『現実』を騒ぎ立てる。 ニュースで『(ワームズ)』に関する情報を報じる様は、やはり、B級ホラー映画のようで……… 何だか、笑える。 海外のエイプリルフールのような報道を 真顔で、神妙に報じる様は滑稽に見えた。 付けっぱなしのTVから流れる情報によれば 『(ワームズ)』は、余り地上の環境に馴染みが無いようだった。 決して、地上での適応力が高い訳ではなく、 即座に人間(ひと)の肉体に寄生出来なかったヤツは 炎天下の蚯蚓(みみず)の如く干からびる。 では、運良く人間(ひと)に寄生出来たヤツは、 どうなるのか―――――。 ヤツらは、人間(にんげん)を宿主とし――――― 新たな生物へと変化した――――。 物言わぬ……ゾンビのような存在に………。 頬の皮膚が裂け……… 口裂け女か、ジョーカーのように赤い笑みを覗かせる。 肋骨と大胸筋の筋が開き………… 時折、心臓が露になる。 肋骨の骨が分かれ、繊細な指先のように バラバラに………… 閉じたり、開いたりする様は『虫』の足の動きに良く似て、気持ち悪い。 肥大化した大腸や小腸は、皮膚を突き破り………… ほとんど一つの塊へと融合する。 その下半身は赤くヌットリした蛇のようにも………巨大な蚯蚓(みみず)のようにも見えた。 頭頂部も脳の肥大化で頭蓋骨が割れ、脳の一部が剥き出しになる。 落武者のように頭頂部以外を、左右に髪が ベットリ覆う姿はグロテスクだ。 恐怖の対象でしかないヤツらの存在も…… 一部の命知らずの間ではハンティングゲームの獲物となる。 海外の配信者は競うように、ネットでヤツらとの戦闘をアップしていた。 ヤツらの心臓が丸出しになった状態を 『丸出し』とか『心臓(ハート)』と呼び、 ガンアクションの的として、撃ち抜いては テンション高く笑い合うのだ。 例え、だろうと、 彼らには最早『人権』など無い―――――。 日本でも、そのうち手製の武器や 3Dプリンターで製造された銃で 『(ワームズ)』を撃ち殺す遊びが流行りだした。 …………当然、返り討ちに遭って、 殺される事もある。 調子にのって暴れ回る配信者が、 大量の『(ワームズ)』に取り囲まれ、 喰われる様は、ゾンビ映画さながらのグロさだった。 …………スマホやパソコンから流れる、 それらの情報は………… 何処か現実味がなく、 悲惨な映像すらも悪趣味な娯楽映画にしか 思えない。 少しの間はネットやTVの映像も確認出来たが、自宅の食料が尽きる頃には、全く電波を受信出来なくなった。 『(ワームズ)』への対抗を訴えるメッセージや避難先情報を流していた配信も全く見られなくなった。 避難先に集まっても『(ワームズ)』を誘き寄せるだけなので、どのみち不要な情報だが。 (どうやら、本格的に人類の生き残りは少なくなっているようだな。 ………もしかしたら、俺以外、全員……… この世から居なくなったんじゃないか―――――? だとしたら……………) 「――――――――笑える」 『世界の全てが終わればいい―――――』 俺の願いは達成されようとしているのだ。
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