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―――――――――ドンッ!
俺の迷いを無視するように
………突然、何かが壁にぶつかる音がした。
俺の思考は、そこで途切れる。
――――――ドンッ!
…………もう一度……………
……今度は、更にはっきりと…………
――――――音がする。
…………音のした方を、覗き見ると…………
勝手口の小さな磨りガラスに、黒い影が映り込んだ。
―――――――『蟲』だ。
(……………何で……………?
何で?此処………密室なのに…………
何で、家に入って来ようとするんだ――?)
ガクガク震える膝小僧に、生温かく俺の粗相が流れる――――――
不快なアンモニア臭に気が及ばぬ程、俺の思考は硬直していた。
―――――――ガシャンッ。
何度か、軽く『蟲』の頭を当てられた磨りガラスが、とうとう悲鳴を上げて崩れ落ちる。
………………グルル…………
微かに、ヤツは喉の奥で野良犬の唸り声に似た音を立てる。
ふしゅぅ~…………っと、口から空気の抜ける音と、微かな重低音が静寂の中に広がる。
ヒビ割れたガラスから覗くヤツの絞られた
瞳孔は、金色に鋭く光を放つ。
その光は、蛇の其れに似ていた。
「…………う゛…………あ、……ぁ………」
叫ぶ事すら、まともに出来ない俺を見て、
ヤツの眼が妖しく細められる。
愛しむような、その眼は獲物を前にした歓喜の眼差しだろうか―――――?
ドンッと勢い良く勝手口を壊し、滑り込んで来るのと同時に、
俺は本能で駆け出していた―――――。
『蟲』は、扉を壊した迄は良いが、雑多な家具や狭い家の構造に阻まれ、肥大化した腸を思うように動かす事が出来ない。
その間に、俺は玄関から飛び出した―――。
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