1.始まり………

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―――――――――ドンッ! 俺の迷いを無視するように ………突然、何かが壁にぶつかる音がした。 俺の思考は、そこで途切れる。 ――――――ドンッ! …………もう一度…………… ……今度は、更にはっきりと………… ――――――音がする。 …………音のした方を、覗き見ると………… 勝手口の小さな磨りガラスに、黒い影が映り込んだ。 ―――――――『(ワームズ)』だ。 (……………何で……………? 何で?此処………密室なのに………… 何で、家に入って来ようとするんだ――?) ガクガク震える膝小僧に、生温かく俺の粗相(そそう)が流れる―――――― 不快なアンモニア臭に気が及ばぬ程、俺の思考は硬直していた。 ―――――――ガシャンッ。 何度か、軽く『(ワームズ)』の頭を当てられた磨りガラスが、とうとう悲鳴を上げて崩れ落ちる。 ………………グルル………… 微かに、ヤツは喉の奥で野良犬の(うな)り声に似た音を立てる。 ふしゅぅ~…………っと、口から空気の抜ける音と、微かな重低音が静寂の中に広がる。 ヒビ割れたガラスから覗くヤツの絞られた 瞳孔は、金色に鋭く光を放つ。 その光は、蛇の其れに似ていた。 「…………う゛…………あ、……ぁ………」 叫ぶ事すら、まともに出来ない俺を見て、 ヤツの眼が妖しく細められる。 (いとお)しむような、その眼は獲物を前にした歓喜の眼差しだろうか―――――? ドンッと勢い良く勝手口を壊し、滑り込んで来るのと同時に、 俺は本能で駆け出していた―――――。 『(ワームズ)』は、扉を壊した迄は良いが、雑多な家具や狭い家の構造に阻まれ、肥大化した腸を思うように動かす事が出来ない。 その間に、俺は玄関から飛び出した―――。
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