2.ステルス人間

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2.ステルス人間

―――――はぁ、はぁ……… …………っぐ、………はぁ……っ……… 体が鉛のように重い。 それほど走っていないのに、 ひ弱な枯れ木のような足を、重く引き摺る。 息を吐き出すも事も、吸う事も、 (まま)ならぬまま、脇腹にズキズキと痛みを感じる。 …………ちょっと走った位で、 直ぐに息が上がる、この(てい)たらく。 土地勘がある事だけが幸いし、誰も居ない廃墟に身を隠した。 …………だけど、それに果たして意味があるのかは解らない。 別に信じていた訳ではないが、視界に入らぬ 対象は認識しないという、あの情報―――― やはり、あれはデマだったのか…………? 磨りガラスだったとはいえ、何処まで俺を認識していたのだろう………? になど意識が及ばないヤツらの知性で、扉の先など認識する事が出来るのか…………? もし、それが可能なら、何故、わざわざ勝手口を使った…………? 玄関の扉の広さなら、ヤツも容易く入れただろうに――――――………。 ―――――――…………解らない。 …………考えても、解らない事だらけだ。 粗相(そそう)をしたにも関わらず、ヤツが追って来ない所から考えて、嗅覚は発達していないらしい。 もう一度、辺りを見渡し、 ヤツが居ない事を確かめると、 ふぅ~……っと深く息を吐き出した。 まだ安心は出来ないが、気を張り続けるにも 気力がいる。 気力も、体力も、俺は枯渇している―――。 嫌な事から目を背け続けて来た俺には、 これらの『現実』を受け入れられるだけの 余力はない。 再び、深く呼吸をし―――――…………、 やがて静かに沈み行く心音は、打ちっぱなしのコンクリートの静寂に飲まれる。 (―――………とうとう……………、 ………出ちまったな――――、俺――――) 小さく丸まる俺の手足は、冷ややかなコンクリートに体温を奪われ、微かに震える。 気温は、それほど低くないのに 何故だか、震えが止まらなかった――――。 (…………どうしよう、俺…………、 これから、どうやって生きていけばいい?) 小さな『要塞』に籠る内は、生活苦や生命の 危機をリアルに受け止められなかった。 それなのに今になって、裸足の足から伝わる冷たさが、枯れ枝のような、この身に染みる。 生きる事も、死ぬ事も、 どうでもいいと感じていたのに………… 今は、浅ましいほど『生』に執着している 自分が居る――――――。 (…………何で、あんな、ちっぽけな家を 『大丈夫』だなんて、過信していたんだろう――――――?) 要塞のように立て籠っていた、あの小さな『城』も、壊されてしまえば存外に呆気ないものだ――――――。 あれこれ考え、脅えて、閉じ籠もっていた、 あの城は―――――…………、 俺にとって、 本当に『城』だったのだろうか――――? (…………俺を守ってくれるものは、 もう何も無い――――――) 人間なんて居なくなればいいと何度も願ったのに、独りぼっちにされると不安でしょうがない。 細い手足を抱き締め、小さく屈み込み、 俺は亀のように丸まった。 ―――――――ぐぅ~………………… 酷く落ち込んでいるのに、腹の虫は食事をせがむ。 …………とてつもなくだった。 …………濡れたズボンも気持ち悪い。 落ち込んだり、深く考える余裕など無い事だけは確かだった。 誰も、守ってくれないからこそ、 自分をを見つけなければいけない。 此処をサバイブ出来なければ………… ヤツらに喰い荒らされるか………… 朽ちて、死ぬだけだから―――――――。
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