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向かう先は『SOLID.Sー13』を名乗る人の家。
俺は、その人をソリッドさんと呼んでいた。
イカつい名前に反して、ピンクの壁塗りのマンションに住んでいると自虐気味に語っていたが………話の通り、ちょっと色褪せたピンクの建物があった。
他から浮いた色合いなので、直ぐに解る。
引きこもっていた時からMAP検索はしていたので探すのには手間取らない。
いつかは会おうと話をしていた。
こんな機会でなければ、もっと楽しく会えたのかもしれないのに…………。
『赤い虹』の発生以来、ソリッドさんとは
連絡が取れていない。
果たして無事だろうか―――――?
302号室の前に立つと、何だか、やけに
緊張してくる。『人』と会話するのだ。
今まで散々、チャットで雑談してきた仲とはいえ、いざ対面するとなると緊張が漂う。
どんな人なんだろう………?
本人談では、いつ敵に遭遇しても戦えるよう
鍛えていると語っていたが、実際は俺のようなヒョロ型か、もっとふくよかなタイプだと予想している。
そもそも、家を出ないんだから『敵』になど
遭遇しようもないだろう。
今のような『緊急事態』を除けば――――。
ソリッドさんの話は、いつも盛り気味で、そもそも何と戦っているのかも良く解らなかったが、妄想めいた、その話が何だか面白かったので、俺は好きだった。
ビクつきながら、インターフォンを押してみるが、壊れているのか音が鳴らない。
何度押しても、インターフォンがスカスカするだけだった。
鍵は開いていたので、扉を開けてみる。
中は静まり返っていて、人が居る気配は無かった。
部屋の奥から風が吹いて来る。
良くは見えないが、ベランダの戸が開いているのか、バサバサとカーテンがはためく音が聞こえた。
もしや、部屋の中に『蟲』が居るんじゃ………?
そんな不安も覚えたが………人はおろか、ヤツらが居る気配すらない。
辺りを気にしながら、そろりそろりと足を踏み入れる。『緊急事態』なので、土足だ。
来る途中に手に入れたスポーツシューズは、
まだ新しいが、人の家に土足で踏み入れるのは、少し気が引けた。
いつでも逃げ出せる準備をしておかないといけないので、遠慮なんてしてられないけど。
「………ソリッドさん………居ない……?」
部屋は荒らされており、ベランダのガラス戸は開いているのではなく、割られていた。
ガラスの飛び散り具合からして、何かが部屋に飛び込んで来たようだ。
3階まで『蟲』が来たのか…?
ヤツらの行動パターンからして余り考えられない。
だが、もしかすると突然変異が現れたのかもしれないし、或いは、人間以外の動物にヤツらが寄生したのかもしれない。
相手は未知の生物なので、生態も何もかも、
解らない事だらけだった。
血の跡はあったが、ガラスの切り傷程度の量なのでソリッドさんは、もしかすると生きているのかもしれない。
鍵が開いていたのは、急いで逃げたからか………?
不穏な形跡はあるも、一先ずは
ソリッドさんの死体とご対面とならなかった事には安堵している。
散らばったガラス片の中に、写真立てが落ちていたので拾う。
「…………本当に自衛隊員だったんだ……」
昔は自衛隊に所属していたと話していたソリッドさん。
それも多分、軍事マニアの妄想だろうと思っていたのだが、飾られた写真には確かに
訓練着姿で仲間と爽やかに笑う青年の姿が写っていた。
ソリッドさんが体調を崩す前の姿だろう。
(…………何処かで、
無事に生きていたら良いな)
少し、センチメンタルになってしまったが、
今はそれ所ではない。
荒らされた室内から改造銃などを探しだしては使えるかを確認する。
只の玩具はそのままに、使えそうなものだけを物色しては、足早に部屋を出た。
武器を手にすると不思議なもので、『的』を探したくなる。
正直、『蟲』を倒せる自信はなかったが、配信された動画の様子で、剥き出しの心臓が弱いという事は知っている。
皮膚等も別に特段、強化される訳ではないので、心臓を狙うよりは時間はかかるが倒す事は出来る。僅かに剥き出された脳味噌も弱点。
やはり怖いのは、あの俊敏性と簡単に人を引き千切れる破壊力だ。
ガンアクションのゲームなら腕に覚えがある。
幼い頃、年の離れた従兄弟とサバイバルゲームに興じた事もあった。
…………だが、だからといって、それが即、
実戦で使えるとも思わなかった。
戦場経験もあるという銃を使い慣れた外国人が、『蟲』によって塵と化する様を何度も動画で見た。
それに、スムーズに連射出来る訳ではない。
単体ならまだしも、複数の『蟲』相手だと不利だ。
一斉に取り囲まれて、そして…………
悲惨な末路になるのは目に見えている。
何丁も、武器を拝借したのは良い判断だと思う。
欲張り過ぎた気もするが、連射速度の遅い銃もある事から、いつでも代わりの銃を取り出せるようにしておかないと………。
強者達が動画では次々と殺されていたのに、
自分のような最弱の人間が生き残っているのには理由があった。
…………まず幸いな事に、まだ
ほとんど『蟲』に遭遇していない。
…………これは、本当に幸運な事だ。
それから、一番、重要な事…………
とにかく目立たない。
これが、何よりも大事な事だと感じた。
派手に散って行った配信者の多くが、ふざけ
半分に騒いでいたり、或いは、複数でぞろぞろと『蟲』と対戦していた。
大量の『蟲』を相手にするのだから、当然といえば当然なのだが………結果、それが死に
繋がっている気がする。
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