2.ステルス人間

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(…………コソコソと生きて来た、 ステルス人間としての生き様が……… 此処に来て活きるだなんて、な…………) 荒廃した……マッドマックスさながらの東京 に鳴りをひそめながら、俺は心の何処かで、 この非常事態を楽しみ始めていた。 対処法さえ解れば、危険ながらも対抗の余地はある。 『(ワームズ)』は何を考えているのか、 いつ裏切られるのか、全く解らない人間よりも、いっそ気楽な存在のように思えてきた。 ヤツらは俺を値踏みしない。 マウントも取らなければ、虐めて来る事もない。 影でこそこそ嘲笑う事も……… 人前で公開処刑して楽しむ事もない。 何も考えず……… 何も評価せず………… 只、虫のように呼吸をし、食事をするだけの存在………… 知性の無い化け物相手だからこそ、その目を気にして怯える必要もなくなった。 勿論、捕まる事は恐ろしい。 食べられたくなどない。 けれど………… このB級ホラーのような世界観が、慢性的なストレスや不安に浄化(カタルシス)を与えてくれているのは間違いない。 銃を発射し、反動に耐え……… そして、ヤツらから生き残った時――――― この上ない程、俺は自分自身の存在に 『力』を感じ、生きているという実感を 味わえるのだった。 自分だけの要塞と信じ、自室に引きこもっていた、あの頃よりも――――― この荒廃した世界が、自分の命を輝かせてくれるような気がした。 自分を守る為の要塞は………… 自分を縛り付ける『牢獄』にも通じていたの かもしれない―――――― (…………コイツらも…………、 昔は人間だったんだよな―――――) ゾンビ映画さながらの世界で………、 人間(ひと)の存在の儚さと、哀愁と……… 同時に、自分だけは生き残ったという優越感を感じながら、俺は『心臓(ハート)狩り』を楽しんだ。 俺は、まさにゲームのような感覚で 色々と検証してみた。 サイトに書かれていた『(ワームズ)の感覚、鈍い説』は、どうやら間違いではなかったようで、確かに『(ワームズ)』は嗅覚は鈍いし、視覚も大した事はない。遠くに居れば視界に入らない。少し近くを通ったのに無反応だった事もある。 どうやら視野そのものが狭いようだ。 小石を『(ワームズ)』の目の前に投げ、 どの辺りで反応するかを試した事がある。 その時の様子から、はっきり見えるのは2、3m。ぼんやり認識出来るのはせいぜい5、6mのようだ。 それでも………一度、認識したら一瞬で食らいつけるだけの俊敏さがあり、人間を玩具の如く引き千切るだけの力もある。 脅威である事実に変わりは無かった。 その恐怖にテンパって騒いだ者こそ自滅する。 恐怖と、いかに向き合うか………精神力を 試されている気がした。 とにかく目立たず、ヤツらの死角を選びながら動く事……… 仮に対戦する事になっても、出来るだけ 1対1に持ち込む事………それらを心掛けながら生き延びるしかない。 「………に怯え続けていた俺が……… 化け物を前にして、こんなにも冷静でいられる―――――! 俺を、臆病者だと嘲っていたヤツら、 全員に見せ付けてやりたいぜ……………!」 …………死の恐怖は、変わらずそこにある。 だが…………『死』が間近にあるからこそ、 俺は初めて『生』を実感し、この孤高な戦いに身を投じる事が出来た―――――。 化け物だらけの、この世界でなら、 俺は自由になれる―――――― 悲惨な中の解放感が……… 俺を自由にしてくれる―――――。 今の所、には、出会(でくわ)していない。 …………いっそ、このまま、 この世界を俺だけのものに、してしまおうか――――? そんな、大それた野望を抱きかけた時、 遠くで少女の悲鳴が響いた――――――
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