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(…………コソコソと生きて来た、
ステルス人間としての生き様が………
此処に来て活きるだなんて、な…………)
荒廃した……マッドマックスさながらの東京
に鳴りをひそめながら、俺は心の何処かで、
この非常事態を楽しみ始めていた。
対処法さえ解れば、危険ながらも対抗の余地はある。
『蟲』は何を考えているのか、
いつ裏切られるのか、全く解らない人間よりも、いっそ気楽な存在のように思えてきた。
ヤツらは俺を値踏みしない。
マウントも取らなければ、虐めて来る事もない。
影でこそこそ嘲笑う事も………
人前で公開処刑して楽しむ事もない。
何も考えず………
何も評価せず…………
只、虫のように呼吸をし、食事をするだけの存在…………
知性の無い化け物相手だからこそ、その目を気にして怯える必要もなくなった。
勿論、捕まる事は恐ろしい。
食べられたくなどない。
けれど…………
このB級ホラーのような世界観が、慢性的なストレスや不安に浄化を与えてくれているのは間違いない。
銃を発射し、反動に耐え………
そして、ヤツらから生き残った時―――――
この上ない程、俺は自分自身の存在に
『力』を感じ、生きているという実感を
味わえるのだった。
自分だけの要塞と信じ、自室に引きこもっていた、あの頃よりも―――――
この荒廃した世界が、自分の命を輝かせてくれるような気がした。
自分を守る為の要塞は…………
自分を縛り付ける『牢獄』にも通じていたの
かもしれない――――――
(…………コイツらも…………、
昔は人間だったんだよな―――――)
ゾンビ映画さながらの世界で………、
人間の存在の儚さと、哀愁と………
同時に、自分だけは生き残ったという優越感を感じながら、俺は『心臓狩り』を楽しんだ。
俺は、まさにゲームのような感覚で
色々と検証してみた。
サイトに書かれていた『蟲の感覚、鈍い説』は、どうやら間違いではなかったようで、確かに『蟲』は嗅覚は鈍いし、視覚も大した事はない。遠くに居れば視界に入らない。少し近くを通ったのに無反応だった事もある。
どうやら視野そのものが狭いようだ。
小石を『蟲』の目の前に投げ、
どの辺りで反応するかを試した事がある。
その時の様子から、はっきり見えるのは2、3m。ぼんやり認識出来るのはせいぜい5、6mのようだ。
それでも………一度、認識したら一瞬で食らいつけるだけの俊敏さがあり、人間を玩具の如く引き千切るだけの力もある。
脅威である事実に変わりは無かった。
その恐怖にテンパって騒いだ者こそ自滅する。
恐怖と、いかに向き合うか………精神力を
試されている気がした。
とにかく目立たず、ヤツらの死角を選びながら動く事………
仮に対戦する事になっても、出来るだけ
1対1に持ち込む事………それらを心掛けながら生き延びるしかない。
「………人の目に怯え続けていた俺が………
化け物を前にして、こんなにも冷静でいられる―――――!
俺を、臆病者だと嘲っていたヤツら、
全員に見せ付けてやりたいぜ……………!」
…………死の恐怖は、変わらずそこにある。
だが…………『死』が間近にあるからこそ、
俺は初めて『生』を実感し、この孤高な戦いに身を投じる事が出来た―――――。
化け物だらけの、この世界でなら、
俺は自由になれる――――――
悲惨な中の解放感が………
俺を自由にしてくれる―――――。
今の所、普通の人間には、出会していない。
…………いっそ、このまま、
この世界を俺だけのものに、してしまおうか――――?
そんな、大それた野望を抱きかけた時、
遠くで少女の悲鳴が響いた――――――
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