先生と花火

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6月、と言うと、あのときは奥さんが家出をしてたから私のところに来たってわけか。 「僕がしたことで、君を研究室に居づらくさせてしまったとも知らずに、君が就職したいと言ってきた時、少し裏切られたと思ってしまった。自分で君を追い出すようなことをしておきながら、大変申し訳ない」 そう言って、教授は頭を下げた。 「やめてください。先生は悪くありません。柏木先生も、私も、納得してのことです。後悔はありません」 それは、本心だった。 「そうか……。そうだね。むしろ、後悔があるのは僕の方かもしれないよ。君のような研究者を手放してしまったのだからね。今日の君の発表は素晴らしかったよ。君らしい、地道に実験を積み重ねてデータを取った、とても良い発表だったよ」 「先生に褒めていただけて、とても嬉しいです」 今回の学会に参加して、本当によかったと心から思った。
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