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次の日、見たかった発表だけ見終わると、私は学会会場を出て新幹線に飛び乗った。
今日は、花火大会があると海人が言っていた。去年は研究所から音だけを聞いていた。今年は見たいと思った。本当は海人と見たいと思っていたが、帰れるかどうかもわからなかったし、一緒に見ようと言う勇気もなかった。
駅を出ると、予想以上にすごい人出だった。
まだ時間がありそうだったので、ひとまず荷物を置きにアパートへ向かった。
海沿いの道からアパートへの道を曲がると、私のアパートの塀にもたれている人影が見えた。
海人だった。
私を見ると、近づいてきて、言った。
「待ってたよ」
うれしかった。
「荷物を置いて着替えてくるから、もうちょっとだけ待ってて」
私は大急ぎでアパートの階段を駆け上がった。
旅行鞄を放り投げ、スーツを脱ぎ捨てた。浴衣を着る時間はないので、ワンピースを着ることにした。買ってはみたものの、着る機会のなかったワンピース。いつもタイトなスカートかパンツ姿が多いが、今日はこの華やかなワンピースを着たいと思った。
アパートの部屋を出ると同時に、花火の音が始まった。
「涼子さん、早く早くっ」
海人は私の手を引っ張って歩き出した。
私達は手をつないで人混みの中を進んだ。
海水浴場は人でいっぱいだった。彼は立ち止まると海を指さした。
目の前で大きな花火が上がった。
「あそこに浮かべたイカダからあげてるんだ」
大きな花火が立て続けにあがった。
「こんなに目の前で花火を見るの、初めて……」
私はその迫力に圧倒された。
そのとき、後ろでカメラのシャッター音が聞こえた。振り向くと、海人がスマホを構えていた。
「あんまり、綺麗だから」
海人はそう言った。
「本当ね。でも、花火ってうまく撮れないのよね」
私は笑った。
「そうだね」
海人も笑った。
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