先生の想い

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先生の想い

9月も中旬に入り、海水浴客も海の家も姿を消し、街は静かになりつつあった。 私の教習もあと少しのところまで進んでいた。 今日も研究所を出て、自動車学校へ行く予定だった。 仕事を終えて、スマホを見ると、自動車学校からの連絡が届いていた。 「担当教官急用のため、本日の教習は教官が変更になります」 担当教官が急用?体調でも悪いのだろうか。 私は少し迷ったが、スマホから教習をキャンセルした。 アパートに戻って、向かいの海人の部屋を見たが、明かりは消えていた。 具合が悪くて家にいるというわけでもないようだ。いや、寝込んでいるのかもしれない。部屋で倒れているのかも……。そう思うと居ても立っても居られない気持ちになり部屋を飛び出したが、そこで思い直して部屋の中へ戻った。 私の助けが必要なら、連絡が来るだろう。来ないのだから、私は必要ではないのだ。 そう思いながらも、やはり気になってしまって、何かわかるかもと思い、港屋に行くことにした。 しかし、港屋には誰もいなかった。 私が入ると、クミさんが奥から出てきた。 「あら、涼子ちゃん、海人と一緒に行かなかったの?」 「海人くん、どこに行ったんですか?」 「え?海人、何も言ってないの?入院してた母親が亡くなったのよ」 「お母さんが入院していたんですか?私、何も知らなくて……」 クミは意外そうな顔で私を見た。 「そうなの?2人はてっきり恋人同士なんだと思ってたから、話してるものとばかり……」 「私のことを、そんな大事なことを話す相手だと、海人くんは思ってないんだと思います。私はただの指名客なので」 「そんなことないと思うけどね。海人は涼子ちゃんといると、いつも本当に楽しそうだし」 私がうつむいて黙っていると、クミさんは続けた。 「あの子、小さい時に父親を亡くして、それからは母親が女手一つで育ててたんだけどね、水商売でお酒飲むから体を壊してね。あの子が高校生のころから入退院を繰り返してたんだよ。だから、海人は大学をあきらめて、働き始めて。最初はバイク便とか宅配便とかの仕事をしてたんだけど、たまたま、ここのお客さんで自動車学校の先生がいてさ、夜遅い時間を受け持つと昼間の休み時間が長いってわかって、母親の見舞いに行ってあげられるからって今の仕事に就いたの」
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