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海人は恐い顔で黙っていた。
怒ってる……。
私が他の教官の車に乗ったから?それとも、私が抵抗できないでいたから?ただ、黙って、動けないで、振り払いもしていなかったから?
気づくと車は海岸沿いの道を走っていた。
海人が車を停めた。
「ごめん、俺のせいだ」
海人はそう言って車を降りた。
私も慌てて後を追いかけた。
海人は浜辺へ降りていった。
夏が終わって誰もいなくなった浜辺は、波の音だけがしていた。
「俺が悪いんだ。俺がちゃんとしなかったから。俺が涼子さんをほっといたから」
「そんなことないよ、海人くん、大変だったんだから、私のことなんか気にかけてる場合じゃなかったんだもの。私が悪いの。私が自分で引き起こしちゃったことなの。海人くんは何も悪くない」
「そうじゃないよ。俺がちゃんと涼子さんに好きだって言わなかったからなんだよ。ちゃんと本気で好きだって、付き合ってくださいってそう言って、いつも一緒にいてって、いつも俺のそばにいてって言ってたら、そしたら、涼子さん、こんな目に合わなかった」
そう言って、海人は私をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、怖い目に合わせて、ごめん、1人にして、ごめん」
私はびっくりして、何も言えなくて、ただ、彼に抱きすくめられていた。
「俺と比べたら、涼子さんは眩し過ぎて、俺なんかが本気で好きなんだって言ったら、涼子さん困るんじゃないかと思って、困って、離れていってしまったらどうしようって思ったら言えなかったんだ。母さんのことなんか話したら、重たいって思われるかもって思って、だから、何も言わなければ、ずっと一緒にいられるかもって、そんな風に考えてた。でも、そんなの、だめだ。やっぱりちゃんと言わないと、だめだったんだ。好きだよ、涼子さん、本当に好きだよ。だから、俺の彼女になってください」
海人は体を離して私の目を見た。
「はい」
私は答えた。
「本当に?」
「本当に」
「よかった」
海人はまた私を抱きしめた。
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