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事業が上手くいくなら倒産する会社なんてないんだよ
仕事がそんなに上手くいくなら、世の中億万長者だらけだ。
雨上がりのあの予感は、結局勘違い以外の何物でもなかった。
そもそも仕事が見付からない。人脈もなければスキルもゼロで、上手くいくと思う方がどうかしていた。
ネットのお仕事紹介サイトに登録してはいるものの、そもそも自分が書けそうな内容の記事なんてほとんどなくて。
あったとしてもイナゴに食い尽くされる麦のように秒で溶ける。消えてなくなる。
収入なんて雀の涙か涸れかけの井戸かって感じで、肉体労働万歳っていうのが第一の感想。もうどうにでもなりやがれ。
授業帰りにスマホでサイトを覗いて、自分にこなせそうな案件をあさる。
化粧品とか触ったこともない。
旅行会社のレビュー? 使えるもんなら彼女と二人で使ってるね。
不動産関係? 家賃払ってるくらいしか覚えがないよ。
今回こなせる案件は3つ。それも1時間かけて200円しか稼げない、塵つもみたいな発想の案件のみ。
軽く絶望。
まぁまぁ、しょうがない。
信用がない学生ライター様じゃ、こんなもんだろうよ。
やめてしまおうかとも思う。
所詮バイトがないからと軽く始めた仕事。できないんだったらやめてしまえばいい。
けどそれって……、なんか、悔しいじゃないか。
大して苦労をしたわけでもない。
家賃が払えず、電気・ガスが止まったわけでもない。
そんな状態でさっくりと投げ出すのは、たとえ彼女が拗ねたとしても、非常に悔しい。
このまま続けて当たる(・・・)未来が見えない?
発想が逆でしょ。
当たる状態が想像付かないほどふわふわな状態で稼ごうとしてるから、稼げるはずがないんだ。ツールはある。スキルは今からつける。環境は十分整ってるはずだ。
月収8万を目安にして、……少なくともその半分くらいはこの仕事で稼げるように頑張ろう。
家に着いてから、自分の書ける文章はどういうものなのか、研究することにした。
ピロリン
スマホの通知。
彼女だ。
(何してるの~)
(勉強、かな。お仕事とも言えるけど)
(そっかそっか)
写真が送られてくる。
(今日の服装)
ジージャンの下に、ぐでたまのパーカー、ロングスカート。
(かわいい!!)
(えへへ、ありがと)
そんなやりとり。
直後、電話がかかってきた。この勉強は急を要するわけでもない。電話しながらでもできることではある。スマホを取り上げ、画面をスワイプする。
『もしもーし』
「はいもしもし」
『今大丈夫?』
「うん、かまわんよ」
『勉強中にごめんね』
申し訳なさそうな、相変わらず可愛い話しぶり。
クールっぽい服装と振る舞いのくせに、気を許した相手にはとことんまで甘えかかってくる。実際今だって、特に話すような事なんてないのに、こうやって電話してきてくれる。
「どっかに遊びに行ってきたの」
『そうそう、友達とららぽにショッピング』
「なんか欲しいものあった?」
『うーん、そんなに。愉しかったんだけどね!』
「あるあるよ」
『あぁ、そういえばねー、赤ちゃんよりおっきなぬいぐるみがあったんだよ。もふもふで、おっきくて、すんごい可愛いヤツ』
フリーランスとして稼げた数千円の使い途を、たった今思い付く。
「あ、そうなんだ。オレも実はそういうやつ、一緒かどうかは分かんないんだけどたまたま見つけてて。今度そっちに送るよ」
『え!? 悪いってそんなの。お手紙くらいで十分』
「手紙は送る。それは既に確定事項だから。それとは別に、社会情勢と経済状況によりなかなか会えない彼女様に、思い出のよすがとして身近な何かを贈りたいわけよ」
『……嬉しいけどぉ』
「一方的に送りつけるので、悪いけど受け取ってね」
『そんなことしてるからあんまり会えないんだぞぉ』
「間違いない。自分の悪癖に若干うんざりしてるところだけど、まぁ、あってもなくても変わらない収入だったから。それなら、棚ぼた的に彼女に押しつけちゃおうかなって」
『……ありがと』
「逆に悪いね。直接会える方がいいだろうけど、なかなかそうもいかないから。かさばるけどまぁ、一緒に寝てあげて」
『……あんただと思って大事にするね』
「ありがと」
『……ただし』
少しだけ口調を険しくして、彼女が言う。
『あたしに会えなくてもいいから、無理だけはしちゃダメだからね。あんたのしたいことをしっかりやりきってから、あたしに会いに来てください』
分かったかっ、と可愛らしくカメラを指さす彼女。
有り難い、と思う。
こんな彼女、そうそう見付からないに違いない。
「ありがとう」
だから、あえて言葉にする。
「キミのためにも、全力で頑張るから」
『……うんっ!』
やろうと思い立ったことなんて、すんなりできることの方が珍しくて。
結局彼女に会いに行くペースは速まりそうもない。
それどころか、最近なんて疫病蔓延で会える状況じゃなくなってしまったんだけれど。
なんだかんだでこのタイミングでそうなるのは、たぶん好機。会えない分、授業とかが遅れてしまう分、自分のスキルを磨くチャンス。自分の在り方を研ぎ澄ますチャンス。
やりたいこととやるべきことに、一個ずつ優先順位をつけていこう。1つずつマスターしていけばいい。期限を切って、必要を一個ずつクリアにしていくんだ。
そうすれば確実に、できることはできるようになる。
あとは自分の生活とのチキンレース。
収入が減って食えなくなるのが先か、スキルを身につけて稼げるようになるのが先か。 できないものは確実にできないんだから、追いつかれたときこそが止め時。
それまで必死に、無様に足掻いてやろうと思う。
だってその方がカッコいいから。
できないからと見切りをつけて、さっさと別のことに手を繰り出すよりも、できないなりにギリギリまで足掻き続けて、ギリギリの状態で綱渡りする自分の方が、圧倒的にカッコいいと思うから。
最高な彼女の隣に立つには、それくらいの意地を持ってないと釣り合わないと、そう思うから。
彼女はまだ僕の隣に来させてあげられない。
大学生のうちはまだこれでいい。
今のうちに専門性を身につけられたなら、それこそ食うに困らないから。彼女を隣に連れてきても、二人分の暮らしを支える程度の甲斐性は身についているだろうから。
そうじゃないとしてもそれはそれ。就職先が営業とかなら、今までやってきたことをもう一度やり直せばいいだけ。何をしてもオレの経験は生きる。
ごめんだけど、まだ我慢しててくれよ。
今、伏線張ってるところだから。
未来でさっくり伏線回収して、ハッピーエンドに連れて行くから。
さぁて、どうしたら高収入の仕事が手がけられるだろう……。
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