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次はいつ会えるだろう?
雨の音が、窓越しにパラパラと響く。
午前10時。
六畳一間のアパートに上がり、フローリングに旅行鞄を横たえながら、目の前のスマホに話しかける。
「いやー、参ったわ。こんな雨降ると思ってなくて」
イヤホンから、昨日は耳許で響いていた声がする。
『大変だったね~、大丈夫? すぐお風呂入っちゃいなよ』
画面には、暖かそうな部屋で、もこもこの部屋着を纏った、彼女の姿。
これだけで、もはや眼福。愛しの彼女の部屋着姿って、それだけで理屈じゃなく目の保養になるよな。彼女からしたらオレもそんな感じに映ってるんだろうか?
「えー、へーきへーき。こんなのタイルで拭くだけで十分だよ」
『だーめ。ちゃんとお湯溜めて、しっかりお風呂にすくみなさい。あたしに会いに来たせいで風邪引くなんてことになったら、あたし自殺するよ?』
「うーん、死ぬことじゃないね? そんな理由で死なれたらオレの立つ瀬がないよね?」
『そう思うんだったら、きちんとお風呂に入ってきなさい。いい!?』
「わーったわーった。お風呂溜めてくるわ」
『あたしと話したいからって風邪引くような事しちゃダメだよ~。分かってるか、このっ』
「うるせぇ。オレの心を読むな。口許弛んでんぞ。カッコいいとか思ってんじゃねぇよ」
『あ、バレた……。だって昨日も思ったけど、濡れ髪、AVか! ってくらいエロいんだもん……』
給湯器の電源を入れ、浴槽をシャワーで流して濡らす。
「ちょっとうるさいよ」
『あーい』
通話のカメラを停止させ、音声だけ相手に届く状態にする。
洗剤を吹きかけ、スポンジでざっくりこする。
『お風呂入るときは通話切る?』
「……見たい?」
『いいの!?』
「ダメに決まってんだろ、たわけ。水没怖いし流石にその提案はボツだわ」
『えー……期待させといてぇ……』
「勝手に期待した責任をオレに押しつけられても困る笑」
泡をもう一度出したシャワーで洗い流し、栓を落とした。
「これで10分後にはお風呂に入れるよ」
『おつかれさま~』
「ありがとう」
カメラを復活させた後、画面を覗き込みながら服を準備する。
「そっちは寒くない?」
『朝10時の春だよ? 部屋の中だし、さすがに寒いことはないって』
「よかった。女の子が身体を冷やすもんじゃないしね」
バスタオルに下着を挟み込む。視界をかすめる画面越しの柔らかな太もも。
「……下半身とか」
『変態』
ジト目半笑いでなじられる。
「まぁまぁ、冷やしすぎたらマズいのはホントだし。心配しての発言だし、ノーカンにしてくれやしませんか」
いろいろ持って立ち上がる。
『もー、しょうがないなぁ。……お風呂は準備できた?』
「うん、そろそろいい感じ」
『ん。じゃ、いってらっしゃい。あたしは朝ご飯食べてくるから』
「おう、風呂出たらオレも適当に済ますわ」
『じゃ、ご飯のあとでね~』
「あーい」
通話を切った。
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