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理想のバイトって見付からないもんだよね
お湯に沈む。
夜行バスで油分を増し、雨でぐちゃぐちゃになった髪の毛はさっぱりふわふわに戻った。ちょっと名残惜しかったけど、1日分の垢も彼女の残り香ごと落とした。
爽快感のまま、温度差に足を痺れさせながらお湯を堪能する。
思わず漏れる、多幸感に溢れたため息。
しばし、思考の空白。
次に浮かんできたのは、いつまた彼女に会えるだろう、という漠然とした考えだった。
そんなにすぐ会いに行けるような距離じゃない。夜行バスが必要なぐらいには、彼女は遠くにいる。なにが足りないって、いろいろ足りないけど、特にお金は顕著に足りない。生活費も家賃も自分持ちだし、その上会いに行く交通費と、会ったときに使う交際費を稼ごうと思うと、ちょっと骨が折れる。
このままのペースで行くなら、次に会えるのは最短で2ヶ月後。それも我慢に我慢を重ねた上で、さらにタイトに生活費を切り詰めた前提。実際的には、必要なお金を貯めるまで4ヶ月はかかるだろう。
それで年に3回。
それが彼女に会える回数。
それはちょっと、いただけない。
それじゃ彼女との時間が足りない。
お風呂上がりの彼女との電話は至福だけれど。
電話越しに飲む彼女とのお酒は美味しいものだけれど。
それでもやっぱり、直接彼女と触れ合いたい。
会えなくてもいろんな物をやりとりできる現代だからこそ、直接会ってのやりとりがその価値を増す。
要不要で言えば圧倒的に不要かもしれない。
そこにお金をかけて貯蓄を削るのは、馬鹿のすることでしかないのかもしれない。
だとしても。
オレは彼女に会いたい。
それが全てだろう。
それで全てだろう。
彼女の温もりを得るために、僕には何ができるのだろうか。
これ以上バイトを増やすのも、シフトを増やすのも現実的じゃない。
平日日中は大学があるからマトモには働けない。
彼女が悲しむから、割のいい夜間や無理したシフトは一発レッドカード。
親から学費が出るリミットもあるし、結局いろんな物を両立させることが大前提。
この辺の縛りを勘案すると、周りがやっているような飲食店・パチンコ・清掃の類は除外されてしまう。一番ラクに稼ぎの桁をあげる方法は封じられていると言っていい。
現状こなしているのは日雇いの肉体労働、児童クラブのお兄さん。
前者は業者次第で収入の当てにできないし、後者はシフトを増やす余地がない。
頭が煮立ってきた。
長湯もしたし、ちょうどいい頃合いだろう。
風呂から上がり、身体を拭いていく。
外に出られるだけの体裁と取り繕って、ブランチを摂るため、牛丼屋に向かった。
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