交際

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交際

 次は交際中のことを記そう。こういう日記というのは、いいものだ。自分の思い出をゆっくり辿って……ああ、いい思い出ばかりだから、書いているだけなのに俺はこんなにも嬉しくて思わず頬が緩んでしまうのだろう。  本題に入る前に幸せいっぱいの惚気を書きまくったって、バチはあたらないよな。  交際は、そもそも交際し始めがお互いのことを知らぬまま衝動的に、といった状態だったから、交際期間はいわゆる「お互いを知る期間」となっていた。なのでまずは、お互いの好きなことを知ろうということになった。ベッドの上で決めた、といえばわかるだろうが、その時の俺は彼女を思う存分堪能していたから先に彼女の好きなことをしようと言った。この時妻は、いやいやまずはアナタの、と言ったが、俺はその日すでに『超好きなこと』をした状態でもあったから、それを正直に告げた。そしたら妻は納得してくれた……顔を真っ赤にして枕を顔面に押し付けられたが。  妻の好きなことは、コンサートだった。俺はてっきり、ネットとかで流行りのアイドルだとかのライブコンサートかと思ったが、違った。妻が好きなのはクラシックのコンサートだった。「コンサート会場で聞くとね、澄んだ音色に身体を包まれたようで、心が洗われるみたいで……とにかくその場で天にも昇れるような心地がするの!」と一生懸命音楽を聴く素晴らしさを語る姿は本当に可愛らしかった。何度も言うが、これを話していたのはベッドの上。両手を広げた妻の興奮に合わせて揺れるものに目を奪われて仕方がなかったのを今でも覚えている。妻は全く気付いていなかったが、また枕を押し付けられたら流石に今度こそ窒息しそうなので言わなかった。……この日記を見られたらバレるな。まぁでも時効だからセーフだろう。
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