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月は儚く。
帰宅すると、一通の封筒が郵便受けに入っていた。
パソコン教室からだった。
そうだった。私が書いた返事ね。
「お手紙拝見しました。香里さんの訃報に接し心からお悔やみ申し上げます。香里さんの事を思い、職員の間で話をしました。香里さんのことはとてもよく覚えています。当時に香里さんはとてっも明るく、クラスでも親しまれる存在でした。ある日、娘さんの体調の異変に気が付いたのは、クラスメートでした。その時に講師の依田が話をさせていただいたのが、あのメモです。香里さんは、自分の事をたくさん話してくれました。とても家族思いで、ご自身の病とも必死に闘おうとしてた印象をもちました。クラスメートと一緒に卒業できなかったのが今でも悔やまれます。お力落としのことと存じますが、くれぐれもお体をご自愛くださいますように。」
そうか、ここにも私の知らない香里がここにはいたのね。
香里は一生懸命、自分と向き合ってたのね。
お母さんはそんな香里に、壁を作ってたのかもしれないわね。
ぎゅっと抱きしめていれば、また変わってたかな。
今は、たくさん香里の事思い出しながら、美保と頑張っていくよ。
私は、父の写真と、たくさんの香里の写真を飾った。
割れたさくら貝に、月舟の浜辺でもらったさくら貝を足し入れた小瓶と、家にあったさくら貝の小瓶も並べた。
どちらもコルクの蓋には『はは』と書かれた文字。
そして笹舟2艘も。
そして、私は絵を描いた。
月の絵を2枚。
これで、月舟の支店みたいになったかな。
月の絵は、一枚は我が家に。
もう一枚は、美容室『AYA』に。
「こんにちわ。」
「あら、いらっしゃい。」
「なんか、雨降りそうよ。」
「ね、この前、綾にもらったメモの民宿に行ってきたのよ。」
「えっ、そんなメモあげたっけ?」
このことは、言ってはいけない事なのね。
「あ、あぁ、綾じゃなかたっけ?そっか。」
「いやだね、美恵大丈夫?」
「まあね。ね、絵持ってきたのよ。どうかな。」
パラパラと雨が降ってきた。
「やば、美恵、ちょっと待ってて、洗濯物取り込んでくるわ。」
ドアベルが鳴った。
「この前のおばちゃんだ。」
「あら、斎藤さんちのヒロ君だったわね。」
「いやあ、降ってきわね。」
男の子の後から祖母が、服についた雨を払いながら入ってきた。
「綾、いま、洗濯物取り込みに行ってて。」
「最近の雨って急に降るからね。ね、あなたこの前の人だね。いえね、この子が変な事言ってたものですから。あの時は確か一人だったわよね。」
「えぇ、そうですが。」
「お姉ちゃんいたもん。」
「ほらね、変な事言うんもんですから、気味悪るくて。」
「ねえ、ヒロ君、どんなお姉さんだった。」
「うんとね、髪が長くてね、おばちゃんの横で顔、心配そうに見てたよ。
」
「じゃあ、いたのかもしれないね。大人になると見えなくなるんだね。」
それでか、この前は鏡越しに、こっちをじっと見てたのって。
「今日はいない?」
「うん、いない。」
「ありがと。」
「お待たせ。あら、ヒロ君いらっしゃい。」
綾が、慌てて出てきた。
「あら、絵、良いじゃない。おぼろ月夜って感じね。」
「あなた、絵描きさん?」
「いえいえ、趣味なんです。」
「やっぱり、こんな月がいいわよね。スーパームーンなんてのより、この儚げな月の方が、味わいあるもの。」
「そうですね。こういう月の方が、私の家族も好きなんです。」
大きく明るい月は、香里を連れて行ってしまった気がした。
私は、名月と呼ばれる光輝く大きな月をいまだに見ることができない。
香里は派手なことは嫌いだったものね。静かにしてるけど、自分を見てって、存在を認めてほしい感じっだたものね。
消えそうなこの儚い月の方が、香里は安心なのかもね。
男の子が、絵を見指さして叫んだ。
「あ、お姉ちゃん来たよ」
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