闇。

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闇。

三人一緒に歩んできた道。    これから先も、当たり前のように道は続いている…はずだった。    いつかどこかで、分かれ道に遭遇し、遠回りや迷い道を経験しながら、娘たちは、それぞれの道へと歩みを進めて行ったであろう。  それが、当然だと思っていた。    しかし、その香里が進むはずの道が突然崩れ落ち、香里は、永遠の暗闇に落ちていった。    分かれ道も、遠回りをすることも無く…。      残った私は、幅の狭くなった道を歩み続けることができなかった。    消えた香里を探すように、私も暗い闇の中へ。    どこまで落ちても香里は見えない。    どうして…どこへ行ったのよ。    お母さんに何も言わないで。酷いじゃない。        永遠と深く沈んでいくように思えた。それでもいいと思った。    暑さも、寒さも、痛みも感じない。    光の届かない暗闇の中。海の底のよう。    ただ、悲しい…。    ふと、誰かの声がした。    お母さん…。    美保の声。    あぁ、そうだった。美保。戻らないとね。    でも…。    香里にもう会えないことも分かっているけど…。    それでも、それでも…。    香里がどこにもいないのよ。          日々の仕事の忙しさで、次第に、涙することも減ってはいった。    しかし、日常生活がすべて思い出。    朝起きれば、歯ブラシがそのまま置いてある。    最初の頃は、朝起きると、もしかしたら、私はあの悪夢から覚めたのではないかと、本気で香里の姿を、トイレや浴室まで、探してしたこともあった。    やっぱり…いない。    チェストの上の成人式で撮った写真。    優しく私を見る香里の目が悲しい。    亡くなってから、気が付いた。    こんな優しい表情だったんだ。    ため息とともに始まる、香里のいない日常。        買い物に行けば、果物が好きだったな、このお菓子が好きだったな。    アレルギー性鼻炎だった香里がいなくなってから、ストックがたくさんあるティッシュが減らず、買うことがほとんど無くなった事さえも香里がいない事を物語る。    服が好きな香里とよく行った、ウインドウショッピングも、美保とでは、なかなかかみ合わず。テレビを見ても、芸能ネタから、政治ネタまで、会話が弾んでいた香里はもういない。    喪失感を、ぽっかりと穴が開いたようだというが、香里が一人いなくなっただけで、ぽっかりどころか、底なし沼のように、どこまでも深く、永遠に感じた。    それは、5年経った今でも、私は、深い海の中を漂っている。    油断すると、すぐ沈んでしまう。    寂しくて寂しくてたまらない。    それでも、時折、キラキラと光る水面を眺めている。        事件や、災害などで、家族の安否も不明のままというニュースは、自分はまだマシと感じるようになった。    娘が入った棺が、火葬炉に入る時の強烈な辛さも味わった。  炉から出て、まだ熱がこもる台の上で、崩されて軽くなった娘の真っ白な骨も拾った。    娘に死化粧を施すこともできた。娘の身体だった遺骨も墓の中に眠っている。    だから、まだマシ。    事件や事故で、ひどく傷つけられた姿なんて…。  災害で、骨も見つからないなんて…。    耐えられない…。    そう、だから、まだ娘の遺骨がある自分は、まだ…マシなんだと言い聞かせている。    そうやって、沈まないようにしている。      後悔と懺悔の日々…。  許して…香里…。  私は、水面の向こうのキラキラした世界に戻ることが、まだできない。  
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