1.春、進路と出会い

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「やばっ! マジか!!」 「うぉー! 最悪まじないわ!!」 「もう1回くじ引きやろーぜ!!」 「あかん! このままがいいって!!」 ざわざわざわざわ。 教室がものすごくざわついている。 それに負けじと風や鳥たちも大きな音を立てている。 「まさか今度は隣とはねー。よろしく、しおり」 「ほんとに! 幸先いいよね! やっぱり日頃の行いだよね!」 それはないなー、の明日香の返事は無視しておいた。 明日香には口論で勝てる気がしないもの。 「ちょー、まじ無いわああ! 絶対しくんだ! こんな日頃の行いがいい俺がここはありえへんやろ!」 陸が私がさっきまでいた1番前の、ど真ん中でブーブー言っている。 「陸、ざまあみろ!」 明日香が私の肩を抱きながら陸を呼ぶ。 「ちょっ! ほら、絶対おかしい! これはしくんだ! やり直しですよね先生! しおりと明日香が1番後ろで隣同士はやばいですよ!」 そう、私たちは幸運な事に1番後ろで隣同士になったのだ。 神様もわかってるよね。 「文句があるならお前はここだ」 そう言いながら先生は、陸の机を更に前に引きずり、教卓の真横に置く。 「ちょっ! もー、文句ないんでそれだけは勘弁してください!」 陸もこれには降参する。 そんなやりとりを見ていたクラス全員楽しそうに笑っている。 陸はすっかりこのクラスの人気者になったみたいだ。 いつも元気で、おもしろくて、思いやりのある陸は、毎年クラスの人気者になっている。 そして私の隣の明日香も、みんなから人気が高いのだ。 顔も整っていて、スタイルもよく、みんなに優しく接している。その上成績優秀。 私が男だったら絶対好きになるんだろうな、なんて思うこともよくある。 そんな私は、みんなからよく明日香の妹扱いされている。 背も小さく、童顔で、少し人見知りで、成績もあまりよろしくはない。 比べると少し悲しくなってしまう。でもきっと私にもいい所あるんだし!ふぁいと! 前向きな所は私のいい所なんだから!と自分を精一杯励ます。 「…先生、黒板見えないんで前の人と変わってもいいですか…」 私の前の席の徳永さんが小さな声で先生に訴える。しかし、席替え直後の興奮でざわついた教室に、声はかき消されてしまう。 徳永さん、確か、1年生の時一緒のクラスだったな、大人しい子だけど成績はクラスで5本の指に入る子だ。 そんな事は今はいい。徳永さんを助けないと。うー、でも、先生呼ぶ勇気も出ないなぁ、どうしよう、 「先生、徳永さん黒板見えないっていってます」 私があたふたしているうちに明日香の声が教室に響いた。 「はい! じゃあ、俺と変わろ! な! 先生いいっすよね!」 チャンス!とばかりに陸が席を立つ。もう机も持ち上げて動く気満々だ。 「いや! それやったら私やろ! 女の子やねんし!」 と謎の主張をしているのは田中さん。彼女もクラスの中心的存在だ。 「は! どんな理由なん! 俺やろ!」 「前の席で変わりたいやつ、じゃんけんだ」 そりゃそうだよね。なんて思っていると徳永さんは少し申し訳なさそうだ。 彼女は人一倍の優しさを持っている子だなと思う。けれどその優しさの一部は自信のなさや臆病な部分からの優しさなのだろう。 もっと図々しくなっていいんだよー。と心の中で私は徳永さんに伝える。 そんな事も知る由もなく、ずっと申し訳なさそうにしていた徳永さんは、小さく明日香にお辞儀した。 やがてじゃんけんが終わり、高橋君が後ろの席に行く権利を得た。 陸と田中さんはすごく悔しがっているみたいだ。言い出しっぺの法則は本当みたいだ。 そして無事席替えは終了。残り時間は自習時間となった。
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