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社長はクルマを降りようとした俺の腕をつかんで引っぱった。
「これだけじゃ足りない」
「…え?」
「もともと開発途中だった薬だ。社内にデータは残っている。人事に関することはここに載っている連中はまだ若いし転職も考えているだろうが全員が社内機密を持ち出していくとは考えにくい」
「‥‥‥」
「つまりこれはどうでもいい情報だ」
「でも引き抜くとき人選には役立ちます」
開発途中の新製品情報を持ち出して山中は転職した。どちらの会社も完璧には作り出せていない。情報だけ抜き取られたのが現状だ。
山中は個人的に試作品を作ることに成功して俺のような面倒な相手に使用していた。
「お互いどちらが結果を出して厚労省に認可されるか、時間との勝負です」
使えないけど、俺が仕事したのは変わらない。
後のことはどうでもいい。
社長は無言でパソコンを俺に返して腕を組んだ。
「そう報告しろと山中怜士に言われたか?」
「……」
意味がわからない。
「山中に食らいつけ。何かスキャンダルを掴んでこい。なかったらお前がでっちあげろ。手段はまかせる」
「女性関係とかですか?」
社長は無言でエンジンをかけた。
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