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16時になりフリーキック大会の決勝戦が始まった。同時進行で体育館ではミスコンの優勝者の発表も始まる。
グラウンドは大歓声に包まれていた。まずは1年から。先攻が春人で後攻が千秋で、2人ともサッカー部なのでハンデはなしになった。
3点先取の勝負は、始まると大方の予想通りどちらともスムーズに2点とも取ってしまった。
もしかしたらこのまましばらく続くかもしれないと誰もがそう思った時ーー。
「ちょーーーっと待った。」
人混みの中からグラウンドに立ち入る人物に全員が目を向ける。すると生徒達がざわめき出した。
「千早先輩だ!」
「インターハイ優勝に導いた人だ!」
「キャー!」
女子の黄色い声まで聞こえる。
千秋は「チッ。」と舌打ちをした。
「これじゃー勝負は決まんないぞ。俺がキーパーしてやる。」
「げっ。」
千秋と正反対でお祭り好きな上目立ちたがり屋の千早は嬉々としてゲームに入ってきた。そしてゴールポストの前まで行くと胸の前で手を叩いてから腕を広げる。
「さぁ来いよ。」
ゲームが再開するとグラウンドはさっき以上の歓声に包まれた。春人が助走をつけてからボールを蹴り上げる。するとーー。
ガッ!
「止められたーーー!!!!」
千早は春人が蹴ったボールをガッチリと掴み不敵に笑っていた。初めての展開に周囲の声が一層大きくなる。次で優勝者が決める。
千秋は深く深呼吸をするとグラウンドに立った。そして集中する。
(絶対に入れる。その為には......あそこしかない!)
千秋はボールを蹴り込んだーー。
「ゴーーール!!!!!」
ボールは千早の伸ばした指とゴールポストの僅かな合間をすり抜けた。最高潮の歓声の中、走ってきたサッカー部員達に囲まれる。
「やっぱ千秋には敵わねーや。」
振り向くと春人がにかっと笑って近づいて来た。
しばらくすると次は2年の決勝戦の番となった。内野に呼ばれた千早に千秋は腕を掴まれ、響子も一緒にずるずると職員室へ連れて行かれた。
その途中で春人と間宮が2人で特別教室棟の方へ歩いて行くのを見かける。
(春人......まさか。)
“賭け”でなく気持ちを伝えるのなら横から口を出すことではない。間宮も自分の意思で返事をするだろう。
(そうだ。俺の出る幕はない。もしかしたらこれからはもうずっと...。)
職員室で内野におごってもらったジュースを飲み終えると、体育館でやっている後夜祭へと移動することになった。
「そういばさ、ミスコン優勝者茜ちゃんだって!千秋良かったじゃん!デートできるよ!」
「うっせーよ。そんなの辞退すんに決まってるだろ。」
「もったいねーな千秋。我が弟ながら情けないぞ。」
(おまえらに言われるとなんかむかつくな。)
渡り廊下を歩いていると体育館から漏れる音で話し声がかき消された。すると内野が聞こえるように声を大きくした。
「それにしても和久井と金澤が付き合ってるのは驚いたな!」
「えへへー!やっとですよ!」
響子は嬉しそうな顔で返事をする。今まで散々振り回されて来た自分からすれば少しは楽になるかもしれない。少なくとも兄に彼女ができるたび愚痴に付き合わされていた時間はなくなる。
千秋がため息をついてふと横を向いたその時ーー。
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