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「和久井千秋くん!入学式の日に一目惚れしました!付き合ってください!」
「は?」
不機嫌さを少しも隠さずに千秋は目の前の女子を見据えた。
中学校に入学した4月。入学してから何度同じようなセリフを聞いたかわからない。しかもみんな一度も話したことのない全く知らない相手。
小学生の時はこんなことはなかった。好きな人がいたり両思いになったりしてもそれで終わり。それが中学に上がった途端、まるでたがが外れたように告白という儀式が普通になった。
『好き=告白』の概念がいまいち理解できない。だから靴箱に入っている呼び出しの手紙も、休み時間に来る女子の集団も全部無視し続けた。それなのに女というものは一瞬の隙も逃さない。
今日はサッカー部の朝練の為に部室から出た瞬間捕まり、半分引きずられながら体育館の裏に連れてこられた。
「あの...返事は...?」
中心で俯いている女子にジロリと目を向ける。桜は散り終わったというのに、髪に桜のヘアピンを付けている。
千秋は大きなため息をついた。
(しかしなんで告白するのにどいつもこいつも1人で来れないんだ。)
今日は女2人が腕を組んで両側に護衛さながら立っている。群れて圧を発する女の集団には良い気がしない。
「ないな。」
千秋は頭をかきながら冷たく言い捨てた。すると告白してきた女子の瞳に涙が浮かんでくる。
(めんどくさ。)
もう一度ため息をつくとそれが追い討ちになり、心が折れた女子は泣きながら走り去って行く。
「和久井くんってこんな冷たい人だと思わなかった。」
隣にいた『護衛1』が捨て台詞を吐き、『護衛2』はふんと鼻を鳴らして追いかけて行った。しかし千秋にとってはこれも全ていつものことだ。ダメージなんて1ミリもない。
(もう良い加減にして欲しい。何のつもりで一目惚れなどとほざくんだ。)
勝手に自分の理想を作り上げ、勝手に押し付け、そして勝手に幻滅する。もともと女は苦手だったが、ここ最近で余計嫌になっていた。
「付き合いきれねー。」
千秋は踵を返し、グラウンドへ向かった。
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