9

5/5
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
 その後予選が終わり昼ご飯を適当に買って教室で食べていると、突然響子が勢いよく入ってきた。 「千秋ーーー!!!」 いきなりガバッと抱きついてくる。クラスには他にも生徒が何人かいたので、千秋は思い切り眉間にシワを寄せた。 (また噂に尾ひれがつくの決定。) 「やめろマジで離れろ。またフラれたのか?」 顔を上げた響子の目から涙が溢れている。 (フラれたな...。) 「それがね!千早兄オッケーだって!!!」 「は?」 千秋は眉を上にあげた。 (どんな心境の変化があったんだ兄貴...。押してもダメなら引いてみろで響子の作戦勝ちか?) しかしこれで響子との噂は100%否定できるようになる。 (...となるともっとめんどくさいことになるのか?) 響子と付き合ってると思われていることで告白が以前より減ったのは確かだ。千秋は先のことを考えるとため息しか出なかった。 「んじゃ私ミスコン出なきゃいけないから!てかあんた優勝しなさいよ!そしたらもし私がミスコン優勝してもデート権なんて使ったことにできるし。」 「そもそも俺が優勝してもデート権は無効にできるように裏から手回し済みだ。」 「ふーん。茜ちゃんでも?」 「.........。」 やっぱり響子に弱みを握らせると危険だ。  体育館でミスコンが始まった頃、とうとうフリーキック大会も決勝出場者が決まった。1年は千秋と春人の戦いになる。決勝戦まで時間があったので、サッカー部員達に無理やり連れられ体育館へと行った。 ちょうど体育館に入った時、ステージの上にいた響子がこっちに気付いて手を振ってきた。千秋は響子の隣に座っている間宮に目をとめた。 (制服に着替えたのか。さっきの着物可愛かったけどな......ってまた何考えてんだ!) 千秋は恥ずかしくなって顔を逸らした。  ミスコンのステージでの質疑応答が終わり解散になると、観客達はさっそく投票箱にお気に入りの子の名前を紙に書いて入れていた。学年ごとなので箱も3つある。 興味のない千秋は1人で人混みをすり抜け、すれ違った先輩と話した後ある場所へと向かった。  2階の奥にある写真部の部室。ここには部員が撮った写真の展示がされていた。気になっていたのはポスターになっていた写真。この街で有名なあの“イチョウ並木”の写真だ。  中に入った千秋は息を呑んだ。誰もいない部室の中央に、制服姿の女生徒の後ろ姿がある。その前にはイチョウ並木の写真。 ゆっくり近付いた時、彼女はポツリと呟いた。 「一緒に観たかったな...。」 「誰と?」 驚いて振り返った間宮と目が合う。 (しまった!つい言葉に出してしまった!) 「...俺もこの写真観たかったんだ。そしたら先客がいて驚いた。おまえと初めて話したのもここだったな。」 「覚えてたんだ...。」 忘れるはずない。一目惚れしたあの時のことを。 千秋は間宮の隣に立つと写真を観たまま口を開いた。 「決勝で春人と勝負する。暇なら観に来いよ。」 それだけ言い残し千秋はその場から去った。春人を打ち負かすためにーー。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!