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 暑い夏休みが明け、あれほどしきりに鳴いていた蝉の声も聞こえなくなってきた9月。千秋は今朝も早く来て誰もいないグラウンドへ向かった。 チラッと教室に視線を向けると、夏休み中1回も見えなかった人影がすでにそこにあった。  ずっと前から気付いていた。毎日、間宮が窓からグラウンドを見下ろしていたことに。 小学生の時からそうだった。外でサッカーをしているとよく目が合った。 あまり活発に身体を動かすような子ではなかったので、単純にサッカーに興味があるのかと思ったこともある。声をかけようかともしたが、どんな風に話しかけたらいいのかわからなかったのでやめた。  自分の周りには男しかいない。あとは男みたいな猿(響子)だけだ。あんな見るからにか弱くてふわふわしててすぐに倒れそうな『女の子らしい』人種とは、恐ろしくて到底交流などできない。  するとその時、教室の窓にもう一つ人影が現れた。 「...?あれは...。」 千秋も見知った顔だった。 「涼平。」  小学校から一緒の柿沼涼平は、間宮を小学生の時にいじめていた張本人だ。しかしその真意は誰もが知ってる。ただ好きな女の子にちょっかいを出していただけ。 周りから見れば瞭然だったが、間宮からしたらそんな理由は関係なかっただろう。いじめられていたという事実は変わらないのだから。だが愛情表現をしているという意味では、ただ目を合わせただけで怯えさせる自分よりはマシなのかもしれない。  教室でしばらく2人は言葉を交わした後、間宮が涼平に頭を下げているのが見えた。 「...またあいつ何かされてんのか?」 しかし自分には心配する資格などない。小1の時のイチョウ並木で助けたあの一回しか話をしたこともない。 (きっとあんな昔のことを間宮が覚えているはずはないだろうな。) 「アホらし。」 どうせ考えたって無意味だ。「自分にはサッカー以外のことにうつつを抜かす暇などない」と自分に言い聞かせる。夏の大会で連覇する為には今からまた練習をしなければいけないのだ。 千秋は手に持ったサッカーボールを見つめた。そして頭から邪念を消すように、手から落としたボールを強く蹴り上げた。 澄み渡った秋の空に、どこまでも高くボールはあがっていったーー。
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