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淡い桃色の花はとっくに散った後だった。緑の青臭い匂いが空気中に漂う。一年中で一番穏やかな季節だ。高校三年生になってから、もう二週間が経過していた。
木の芽の色も真新しい。何もかも真新しさに包まれる季節だった。窓越しに差し込んでくる優しくて暖かい陽気は、眠りを誘う。空の会いは透きとおっていた。
花壇もパステルカラーで埋め尽くされ、気分が上がる。花が虹のように揺れていた。コップ型の赤いチューリップは、口紅のようにつやつやしている。
「村井さん。村井澪(みお)さん」
数学教師に呼ばれた私は、我に返った。うっとりと一人で春を感じていた私の時間は終了してしまった。
窓にはショートカットの私が映った。平凡な一重。特に特徴のない普通の顔立ち。
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