しあわせなポスト

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  ゆうびんポストは、言いました。 「ぼくは、きっと、せかいいちのしあわせものにちがいない」  ゆうびんポストの上で、ひなたぼっこをしていたネコも言いました。 「しあわせくらべなら、わたしだってまけやしないよ」  ネコは、おひさまがポカポカしてきもちのいいばしょも、ひんやりとすずしくてきもちのいいばしょも、おいしいごはんがたべられるばしょも、たくさんしっていたからです。 「それは、あなただけのしあわせでしょう。でも、ぼくは、まいにちたくさんの人に、しあわせをとどけているんですよ」  ゆうびんポストは、むねをはっておおいばり。  目をキラキラさせててがみを出す人、手をあわせてひっしにおねがいする人、ドキドキしながら出す人、まよって、まよって、たくさんまよって出す人、たくさんの人のかおをまいにち見ているのです。 「それが、どうしてしあわせなんだい」  ネコが、ききました。 「だって、ぼくはその人のゆめを、だれかにとどけているんですよ。これって、すごいことじゃないですか」  ゆうびんポストは、人のおもいをとどけるこのしごとが、だいすきなのです。  でも、ネコはくびをふって、ざんねんそうにしています。 「わかってないねえ。てがみってのは、わかれのてがみや、ざんねんなしらせも、とどくんだよ」  ネコは、しっぽでポンポンとかるくゆうぴんポストをたたきます。そのつぎに、やさしくしっぽでなでて、なぐさめました。 「いいえ。それはちがいます」  ゆうびんポストは、にっこりとわらってこたえました。 「そういうてがみは、あたらしいであいをはこんでいるんです。それは、しあわせなことなんですよ」  それをきいたネコは、あきれました。 「ものは言いようだねえ」 「そうかもしれません。だって、ぼくの目は、まえにしかついてませんから」  ネコは、おおわらいしてしまいました。 「あたしの目だって、まえにしかついてないよ。うしろにもついてたら、ばけもんさ」  ゆうびんポストも、つられてわらいました。 「それはこわい。でも、あなたたちは、ときどきうしろをむくんでしょう? それはよくないことだとききました」  ネコは、ゆうびんポストのいったいみが、わかりました。 「そのうしろむきは、ちょっといみがちがうけど。まあでも、うしろをむいたときにしか、見えないしあわせってのも、あるんだよ」  そう言うと、ネコはおひさまからかおをかくすように、まあるくなりました。 「そうなんですか。じゃあ、せかいいちは、いいすぎかな」  ゆうびんポストは、じぶんがせかいでなんばんめのしあわせものか、しばらくのあいだかんがえていました。  たくさんかんがえて、でも、やっぱりおもいました。 「うん。それでもぼくは、せかいいちのしあわせものだとおもいます」  ゆうびんポストは、うれしそうに言いました。 「だって、しあわせって、人とくらべられないですからね」  ネコは、大きなあくびをすると、そのままねむってしまいました。
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