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彼は人畜無害そうな笑みを浮かべて話しかけてきた。 「ねぇ、俺のこと覚えてる? さっき店で声かけたんだけど。」 見たところ私とさして変わらないような年齢だと思う。 …おそらく20代半ばくらい。 焦げ茶色の柔らかそうな髪はふわっとセットされていて、くっきりとした二重の目がじっとこちらを見つめている。 「…飲みには行きませんから。」 「お、覚えてるじゃん。」 「…お客様ですから。 でも今は業務時間ではないので。 失礼します。」 くるりと彼に背を向け、階段を上り始める。 「ねぇ待ってよ。」 小走りで追いかけて来た彼は私の横に並んで歩き始めた。
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