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機体の扉を開けると、老婆がいた。共に歳をとったものである。友人は、降りる私に手を貸しながら言った。
「どうよ、久々の過去は」
「昔の自分って、若いもんだね。んで、そっちはどうよ」
「なにも変わりない。私はまだ研究者をやっているし、あなたはうちの編集の奥さんをやっているよ」
「そりゃ、良かった」
あの日無くなった千円。その代わりの手に入れた雑誌は、欲しかった雑誌の最新刊。
実を言うと、私が本当に手にしたかったのは、前月号だった。ちょっと違う。
だが、あの最新刊には懸賞論文の募集があり、なんと、半年後にはユミエが入選し、正しき研究者の道を歩き出したのである。そして、タイムマシンを完成させた。めでたい話である。
ついでにいっておくと、私は、彼女の編集をすることになった男と恋に落ち、ゴールインした。娘が二人に孫は四人。幸せな人生である。
すべては、あの千円から。犯人にお礼を言おうと過去へ飛んだはずが、敬語使いのマセた自分を幸せにするなんて!
世の中、妙なことも起きるのだなぁ、と私はしみじみと思ったのだった。
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