ヘソクリが消えた件

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まぁ、もともと無いものだとは思っていたんですよ。今からしてみれば、もう10年近く放っておいたわけですからね。ただ、今月はちょっとお金が厳しくて、そんなとき、ふと思い出しちゃったんですよ、このヘソクリのことを。 だから、悔しいんです。犯人を取っ捕まえたいですね。 ところで、一応白状しておきますと、もうひとつ、あるんですよ。例のヘソクリ。これは、千円札を長細く折り畳んで、スニーカー型のキーホルダーに捩じ込んでおります。 隠しているのは、いま開いている場所の隣でございます。ガラリと引き出しを開けますと、まぁ出てきますわ、スニーカー。 中身を確認します。はい、無事。一枚入っておりました。 わーい、うれしいね。 さてさて、この貴重な千円札、これがあれば大丈夫。わたしには、作戦があるのです。この一枚を守るための、大層なわけがない戦略がね。 いや、本当に大したことじゃないんです。むしろ、犯人の技量に左右される、不安要素の多い策略なのです。 大前提といたしましては、敵はわたしのことをよく知る人物で、なおかつ、家の出入りをスムーズにできるものなのでございます。 なんせ、ここは実家ですからね。専業主夫の父も常駐しておりますし、人の目はありますよ。たくさんあります。ギョロギョロです。 だから、わたしの部屋に入っている場面を父に咎められても言い訳でき、そもそも、家にいることが不自然でない人物が犯人なのでございましょう。 ふふん、なんて名推理! え、迷推理?そんな馬鹿な。
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