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さて、駅二つ先。先に連絡を入れておいたので、友人は改札前へ迎えに来ていました。汚れた白衣をなびかせながら「や!」と景気よく手をあげました。金もないくせに。
「お久しぶり。元気だった?」
「元気じゃない。最悪の気分だよ」
「おやおや、またどうして。あ、ついに金が尽きたかな?絞りすぎて申し訳ないね」
「やめてよ、本当のことを言わないで……」
頭を抱えてから、ふと気がつきました。もしや、犯人はこいつなのでは、なんて思い始めてしまったのです。彼女にヘソクリの話をした覚えは無いのだが、酔って語った可能性がありました。なんせわたしは、酒が入ると記憶に羽が生えて飛んでいくタイプなのです。忘れていたっておかしくはない。
じっと友人を観察しました。垢の目立つ体、黒ずんだ白衣……。うちの人間が、こんなのを家にいれるとは思えません。少なくともわたしは、ユミエを家に招く際には、まず彼女の家に行き入浴させるとこから始めるのだから……トリマーの気分。
「とりあえず、ユミエの家に行く……」
「え、せっかく外に出たんだし、カフェでお茶でもしてこうよぉ」
「なに言ってんの。まずは風呂に入れ!」
駅を行来する人は、明らかにユミエを避けていました。不清潔な様を見れば近寄りがたいだろうし、なにより、正体不明の臭いまで漂っていたのです。
油と、紙と、鉄の混ざった体臭。通行人ならず、わたしまで顔をしかめてしまいそうでした。
「ほら、行くよ」
わたしはユミエの袖を持ち、引きずるようにして駅をあとにしました。指の下がねっとり濡れたのは、鳥肌ものであったのですがね。……口には出さなかったけれども。
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