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あの夜を想い出す。
僕は、寝たきりのままの父さんの寝室にいた。
可動式ベッドを操作し、上半身を起こして、父さんは弱々しく口を開いた。
「総一郎、そうか中学を卒業したんだったな。高校はどうだ?」
「まだ始まっていないよ。新型ウイルスが流行してるんだ」
「今日はどうしたんだ?」
「さんのことを聞きに来た」
「そうか。同級生だったから、もう仕事を始めたんだな」
「何なんだよ、仕事って! あんなの人のすることじゃないだろ!」
想わず、大きな声になり、慌てて声のボリュームを下げた。
「蔵で見つけたんだ、これ」
僕は、『さんについて』と書かれた古文書を父さんに見せた。
父さんは目を閉じて、苦しそうな表情を見せながら、暫く押し黙った。
やがて、険しい目付きになり、しっかりとした口調で言った。
「そこに書いてあることは真実だ。お前に全てを知る覚悟があるのか?」
「覚悟がなければ来ないよ」
「そうか、自分を恨むな。責めるな。それだけ約束してくれ」
僕は黙って頷いた。
父さんが語った内容は、古文書と同じだった。
父さんがいつ読んだのか、或いはいつ祖父ちゃんから聞いたのかは分からない。
でも、鮮烈に記憶に刻み込まれたということだろう。今の僕の様に。
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