獄ノ終:バケモノの証明~天ノ蟲~

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室町時代、雪深く貧しい村にの先祖が流れ着いた。 当時の村長(むらおさ)は彼女の体を白く塗り、匿った。 彼女は、天涯孤独であり、独特な容貌から行く先々で迫害を受けていた。 世を(はかな)んだ女は、死出の旅路に北を目指し、里に下りず、山をひたすら歩いていた。 現在でもなお雪深く、スキー場は春からオープンする様な地域だ。 当時、年間の2/3以上が雪に閉ざされる貧しい村では、穀物の栽培もままならなかった。 行き倒れた異形の女は、村長の介抱を受け、元気になった。 彼女は博学だった。 村の現状を聞いた女は、自生していたヤマグワに目を付け、村長に植林を薦めた。 ヤマグワの成長はとても早い。一年間で4メートル成長することもある。 不整の鋸葉は効能豊かなお茶に。 強い繊維を持つ樹皮は提灯(ちょうちん)や和傘の材料(和紙)に。 甘く熟した果実は生でも美味しく食用に。 根の皮は喘息や肺病などの生薬に。 硬く美しい木材は箪笥や琵琶・三味線などの工芸品・楽器などに。 そして、養蚕業――桑の葉を食べるカイコによる絹の生産――で村は潤っていった。 村長は、村と自らの名を桑原と改め、彼女を(さん)と呼んだ。
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