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「処で、さん、この部屋、暑すぎないか?」
確かに熱かった。暑いというよりも。
話しに夢中で気が付かなかった。まさか!
異変に気付いた総一郎が、外ではなく、部屋への防音扉に手をかけた。
金属製の把手が肌を灼く、ジュッという不快な音が反響した。
「まずい、さん、外へ出るんだ!」
総一郎は、火傷していない方の手でわたしを引き、もう一つの扉から外へ出る。
焦って、上手く開錠が出来ず、手こずった。
外の冷気で、体の芯まで急激に冷える。
総一郎は、自分のコートを私に羽織らせて、鞄を抱えなおした。
振り返ると、小屋の奥――わたし達の居住部屋――から火の手が上がっていた。
逃げられない様に格子が嵌められた窓は割れ、紅蓮の炎が舌を這わせていた。
母の仕業だとすぐに分かった。
エアコン交換前のつなぎで調達してもらった石油ストーブ。
わたしが仕事部屋に入った後、灯油を撒いたのだろう。
爆発音がして、屋根が弾ける。
わたしは茫然と大きくなる炎を見続ける。
母の声は聞こえなかったが、安否は絶望的だろう。
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