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騒ぎを聞き、駆けつけた地元の消防団が放水を開始する。
桑原家の前には野次馬が群がり、騒然とした。
この地域にとっては、初めての大事件なのだろう。
暗闇に立ち上る煙は――母の身を焼いた煙は――巨大な蚕の繭の様にも見えた。
小屋が崩れ落ち、弾け飛び、燃えカスになる度、わたしの十五年間の想い出も消えていく気がした。
だけど、それは生きた証の喪失ではなく、過去を封印するイメージを伴っていた。
「さん!」
血相を変えて、町長が飛び込んできた。
目の前の惨状を見て、母の死を確信し、絶望的な横顔が炎で陰影を濃く落とす。
「祖父ちゃん!」
総一郎に声を掛けられ、こちらを振り向き、わたしの存在に気づいた。
「でかした、総一郎! これで桑原家は安泰だ! さんをすぐに母屋に運べ。逃がすなよ!」
「逃がすなって、脚の腱でも切るつもりですか?」
何を言ってるの? 総一郎?
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