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半狂乱になった町長が、制服姿の警官達に連行されていく。
消火活動が続くが、火は勢いを増して、母屋にも延焼していた。
総一郎は、わたしに優しい笑顔を向けてくれた。
「さん、君はもう自由だ。今夜、桑原家の血は絶えるのだから」
そう言い残し、彼は地獄の業火へと身を投じた。
わたしは彼を止めようと想えば、止められたかも知れない。
だけど、それは正しい行為なのか?
総一郎が悩み抜いて下した決断なのだ。
彼の自死を止めることは、彼の尊厳を穢すことなのだ。
総一郎は、わたしとは別の方法で、証明したかったのだろう。
人間の証明を。
バケモノではないという証明を。
命を賭して。
白く美しいわたしは、宵闇に浮かんだ蚕の繭へ妖艶に微笑んだ。
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