獄ノ爾:二人の『さん』

4/5
前へ
/72ページ
次へ
だけど、総一郎も子供だったし、小学校の時なんて、女子の方が強かった。 同級生の女子は、男子に気づかれない様に巧みに、そして陰湿にいじめてくるようになった。 ムラ社会は狭いし、子供の世界も狭い。 何より、女の子同士は残酷だった。 女子の中には、エリートである総一郎を好きな子も居た。 そんな子達から見たら、醜いのに、総一郎に庇ってもらえるわたしは、害悪なのだろう。 彼女達は、彼女達なりの正義に従って、わたしを陰でいじめ続けた。 だって、親である大人達がわたし達親子をバケモノ扱いしているのだから。 わたしにとっては、酷く歪んだ正義ではあったけど。 一方、わたしも負けず嫌いで、総一郎に告げ口をしたことがなかった。 桑原の家に助けを求めることが、わたしには負けを認めることだと映っていたから。 彼に知られない様にいじめられれば、いじめの存在は証明されない。 多分、彼の家という後ろ盾がなければ、わたしはもっと酷いいじめを受け続けただろう。 わたしはこの街で生まれた。 あの忌まわしき、小屋で生まれた。 そして、この先、母と同じ様に、闇が澱んだ様なあの小屋で生きて行かねばならない。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加