第19話……人助け

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人助け(7) 腰にクッションを宛てがい、ベッドを起こして優雅にテレビを観……というのは嘘で。 先程からほんの少し腰が軋むだけで、脂汗が出てくる。 ぎっくり腰になってすぐ、無理して動き、次男に授乳とかしたのが裏目に出たのか。 目覚めた後からじわじわと腰の具合が悪化していた。 息をするのもそーっとだ。 昼はスープを口に流して腹を満たした。 咀嚼すら腰に響く。 動けないからマジで他にする事なくて。 まんじりともせず、ただただ目に映るテレビを眺めていたにすぎない。 昼過ぎのテレビはどの局も似たようなワイドショーばかりらしく、一通り悠斗(はると)くんにチャンネルを変えてもらったが、今の話題は有名な俳優だかアイドルが極秘入籍したとか、世紀のビッグカップルだとかって騒いでる。 で。その有名俳優とやらが記者会見を始めた。 絶賛生放送中だ。 いかにもアルファだぞという精悍な俳優は、真面目な顔で、番報告をしている。 ファンの皆さんに報告が遅くなった事を詫び、相手が既に妊娠している事も告げ、バシャバシャとフラッシュを浴びまくっている。 俳優の名前を見て……何かが脳裏を掠めた。 イチノセナオキ ん? なんかアタマが働かない。 ぼーっとしながら悠斗(はると)くんに尋ねた。 「ねぇ。このイチノセナオキくんて俳優、知ってる?本名かなぁ?」 声が張れず、囁きボイスはご愛嬌だ。 それでも悠斗(はると)くんには聞こえたようで。 「そうですよ。一之瀬直樹は本名で芸能活動してます。」 間髪入れずに即答するから、単に芸能人を見知ってるとかじゃなくて、本人と知り合いぽい口調に聞こえた。 「?一之瀬直樹って俳優さん、会ったことあるの?知り合い?」 「同級生です。中学からの友人です。」 「あ、マジか。」 驚きすぎたら、デカい声出ないよね。 いや、今は声出せないのもあるけど。 心の中だけで驚く。 「あ……また、冗談?」 「……。すみません、コレは本当に友人です。」 ほら…と見せられたスマホ。 なんかスマホには今より少し若い悠斗(はると)くんが、一之瀬直樹と一緒に呑みながら写真撮ってるショットがある。プライベートで逢う仲なんだ。 イチノセナオキ 隣室の一之瀬くん。 名前を尋ねた時、照れた感じで一之瀬と名乗った。 改名してパートナーの名前が嬉しいって感じ。 その徹くんのパートナーがなおきくん。 なおきのばかぁって叫んでたしな。 そこでふと、俳優一之瀬直樹の番相手の顔と名前が出た。 ただ今充電期間中ということで、活動を休止している、トップアイドルグループRAINBOW そんなテロップが映し出される。 その中のリーダー的存在、財田(たからだ)(とおる)。 7人で可愛く躍る男性グループの真ん中に……いた。それはまさしく、一之瀬徹くん。 昨夜泣きじゃくって息みまくってたあの子が。 一之瀬徹くん。 だよな。 「隣の部屋の子、一之瀬直樹くんのパートナーだ。」 悠斗(はると)くんも少し驚いたようだけど、それ程表情には出さない。 ま、いつも変わらないけど。 ワイドショーによれば、一之瀬直樹はハリウッドで大作映画の撮影があり、この数ヶ月アメリカにいたようだ。早めに撮影が終わり、帰国の会見のつもりが、雑誌のスクープネタとして極秘入籍をすっぱ抜かれそうになり、この会見をする事になったらしい。 隣の徹くんは、見ているのだろうか? 気になる。 じーっとテレビを見つめていると。 「優一さん、気になるんでしょ。」 ちょっと呆れ気味の悠斗(はると)くんの声。 「俺ちょっと隣に行きたい。」 溜息を吐き、腰は?大丈夫ですか?と声を掛けられ。 そんな脂汗かいてて、動けないでしょ?と嫌味を言われ。 でも最後は、仕方ないなあって呟くと部屋の隅から車椅子を持ってきた。 相当苦労したが、()()うの(てい)で車椅子に乗り込んだ。 じりじりと亀が通るのかというスピードで、振動が腰に響かないよう車椅子を押す悠斗(はると)くん。ゆっくり隣の一之瀬くんの部屋へ向かう。 芸能人だから名札のない部屋だったのか。 ノックしてもらい、「隣の北條です」と告げると、「どうぞ」と声が聞こえた。 中に入ると徹くんが、ベッドに寝てこちらを見ていた。 テレビは消えてる。 今の記者会見観たのだろうか?
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