第34話……発情期※

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発情期(14) 「ええ、分かりました。お願いします。」 ピッという音がして、通話を切る。 誰か電話をしたらしい。 (まぶた)が開かない。 分かるのは気配だけ。 悠斗(はると)くん(見てないが匂いで分かる)が俺の髪を撫でてくれるから、気持ち良く身を任せている。 怠い身体を動かすには、まだ体力が回復していないようだ。 辛うじて自発呼吸は出来ていて、多少息苦しさはあるものの、さっき感じた指先の痺れは少なくなった。 バタバタバタ……。 不意に何か複数の足音。 知らない声が聞こえてきた。 誰かが俺の肩を叩く。 「わかりますか?」 不意に声がかかる。 うっすらと目を開けようと、(まぶた)を動かしたつもりだが、開いたというのか。 光が薄く差し込むばかりでは見えるには程遠い。 虚ろな思考は、何がどうなっているのか、何も考えさせてはくれない。 誰かが話す声。 応える聞き覚えのある声。 話がまとまったのか、何かが始まるようだ。 不意に身体が浮く。 チカラの入らない俺は、ぐにっと(かし)ぐ。 何かに寝かされ口元に何かを付けられ、腰を固定されたかと思うと、ガタガタと動き出す。 「優一さん、大丈夫ですからね?」 ん、悠斗(はると)くんの声? どこ行くの? 何コレ。 ぐるぐると回る感じがする。 込み上げる嘔吐感。 軽く数回嘔吐(えず)く。 口元のマスク?を外され、声をかけられるが、何も言えない。 少し前屈(まえかが)みになると、思いのほか勢いよく嘔吐する。 そこでやっと、自分の(まぶた)が開いた。 ストレッチャーに乗せられて、エレベーターホールへと向かっている自分。 隣を悠斗(はると)くんが並走してる。 ヘルメットを被る人間が二人。 救急隊員? それにその後姿はコンシェルジュの……。 マンションから出ると、待機している救急車に乗せられる。 普段なら恥ずかしいとか、目立ちたくないとか考えるんだろうが、そこまでの思考は今の俺には持ち合わせていない。 ぐったりと身を任せるしかない。 エンジン音と同時に、けたたましくサイレンが響き、目的地を定めた車はスムーズに走り出す。 「悠斗(はると)く…ん。」 ようやく動き出したポンコツな脳みそで、考えるのだけど、何がどうなってこの状況なのか、色々と情報が抜け落ちている気がする。 「大丈夫ですからね?今、中野クリニックに向かっています。」 思わぬ場所を告げられて、考えが及ばない。 中野クリニック。 中野……とぼけた医院長の顔が浮かぶ。 口を開こうとするが話せない。
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