第34話……発情期※

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発情期(15) 搬送された中野クリニックにて、動かない身体を数人がかりで全裸に()かれ、隈無く検査される。 まだ完全に起きてはいない頭では、全部は把握出来ない。 また嘔吐感が湧き上がり、口端から涎がつつつっと伝い出る。 嘔吐(えず)くと脇からバケツがあらわれた。 バケツを目視すると、それめがけて勢いよく嘔吐する。 それだけでまたまた体力が奪われる。 肩を叩かれながら、〜〜しますねぇー!と何かするのはわかったが、何をされるのかもわからない。 気づいたら静かなところで、ベッドに寝ていた。 体がピクリとも動かない。 ゆっくり目だけ動かす。 見える範囲には、悠斗(はると)くんがいない。 でも部屋は悠斗(はると)くんの匂いでいっぱい。 だんだんと覚醒してきた。 発情期の最中に、呼吸困難になって救急車で中野クリニックに運ばれた。 だったかな。 今はあの焦燥感のある発情がない。 発情期が終わったのか、それとも強い抑制剤で発情を抑えたのか。 「ん、優一さん。」 あれ。 俺の足許に悠斗(はると)くんはいたらしい。 足許から声が漏れた。 泣き腫らしたような顔が、目の前に現れる。 「………………。」 名を呼びかけたつもりが言葉にならない。 それでも口を動かしたのがわかったのか、少し笑んで枕元に近づいて来てくれた。 それからナースコールで俺が起きたことを知らせる。 「気分はどうですか?」 力が入らず動けない俺は、悠斗(はると)くんに返事が出来ない。 「ごめんなさい。」 なんで謝るのか。 わからないうちに、病室に看護士が入ってきた。 ペンライトで瞳孔反射を診られ、一番即効性があり、強力な緊急抑制剤が投与された事を教えられた。 もうしばらくすれば、身体にも力が入るようになるし楽になるとも伝えられた。 今は深夜で、医師からの説明は、明日の朝という事も伝えられた。 また何かあればナースコールしてくださいと、看護士は戻って行った。 俺はまた、しばし夢の中へと微睡(まどろ)み始めた。
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