4580人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話……報告
隣人の友人男性ハルト。
それだけの情報しか知らないにも関わらず、発情期に自宅の玄関先で助けられ、発情期の相手もして貰った。
しかもノリに乗ってしまい、自分から
ゴムは要らない!中出しして!孕ませて!
なんぞと今までついぞ言ったことも無いのに、そんな事まで言い放ち、淫らに求めてしまった。性欲うっすいんじゃなかったのか俺!
覚えてないなら、相手を責められようものだが、生憎全て自分からの言動と行動を覚えており、後悔先に立たずの心境である。幸いなのは、項は噛まれておらず、まだ番の契約までは至っていなかった。
オメガとアルファの発情期の妊娠率は非常に高い。
いつも三日で終わる発情期が、一週間と長引き、更にはアフターピルを飲むタイミングを逃し、なんとなくわかっていたような今回の妊娠。
本当にハルトという人物には、申し訳ない気持ちしかなかった。
発情期が終わり、改めて話を聞くと、会社の取引先で、軽く繋がっている事が判明した。そこで俺の名前と顔を見知っていたという。
ハルト…北條悠斗というらしい。25歳と俺より若い悠斗くんの名刺にはホクトグループという有名企業の第一企画部とあった。確かに俺はこのホクトグループの第二企画部の営業担当で、何度か企画部へと足を運んでいる。第二の部長と懇談する時に、第一企画部の人とも接触していたのかもしれない。
とりあえず連絡先を交換し、さあもう別れようと腰を上げた時、
「実は一目惚れなんです。織田さん。」
と悠斗くんから告げられた。
胸がきゅんと締め付けられる感覚。
かぁぁぁぁぁぁ……。
首から上に熱が集中する。
オメガとは言うものの、儚い容姿をしているわけでなく、至って普通の俺。
何処に一目惚れ要素が?と疑った。
実用的な何も飾らない首輪も相まって、友人からも全然性欲そそられねーなと言われる始末。悪かったな。
会社で俺を見初めてくれた後、偶然にも友人宅の隣人が俺で。
まさかの発情期初日に出逢うとは……。
悠斗くんも相当に驚いたらしい。
俺としては、あんまり結婚とか番とか縁遠い事だと思ってたから、この劇的な発情期はあまりにも青天の霹靂である。その後も悠斗くんは、週に一回は俺の家へ顔を出してくれた。あまり自分を語らない穏やかな青年は、俺の目にも好青年であった。あの発情期に置いて、ラット化することもなく、落ち着き払った精神力で、俺を優しく激しく、感じるままに抱いてくれた事が、本当に嬉しかった。
とにかく、体調の悪さから平日に休暇を貰い妊娠が確定した今日。今からすべきは、悠斗くんへの報告。
スマホのアプリからメッセージを送る。
すみません、仕事中。
終わってからで構わないので連絡ください。
……すると五分もしないうちに、悠斗くんからの着信。
『どうしました?織田さん、体調どうですか?』
体調が悪く病院を受診する事は伝えていたので、心配してくれていた様子。
「はい、大丈夫です。すみません、仕事中に。終わってからでよかったのに。」
『いや、気になってそれどころじゃないから……病院どうでした?』
「……すみません、妊娠、してました。」
『あ……そうでしたか。』
「……はい。それで近い内にうちに来ていただけないかと。」
『もちろん伺います。今夜大丈夫ですか?』
「はい、助かります。すみません、呼び出しちゃって。」
それから軽く会話をして、電話を切った。
とりあえず連絡はした。
妊娠を報告した時の悠斗くんの返事が、微妙に落ち着き過ぎていて、もしかして喜んでないのかなー、そうかもなーと思いはしたが、悠斗くんは一目惚れと言ってくれてるし、俺は特に悠斗くんに不満もないし、結婚とか番とか、深くは考えてないのだけど、悠斗くんとならなんとかなる気がしてる。歳下なのに凄く安心感のある人物なのは間違いない。こんな優良物件、なんで俺のところに転がり込んできたんだろうか。
もちろん、もし妊娠を喜んでいないのならば、独りで産み育てるしかないのだが。そうなればそうなった時だな。なんて……普通妊娠でナーバスになるはずだろうに、呑気な両親に似たのか、楽天家の血筋を発揮していたのである。
気がかりは会社の事。イレギュラーに妊娠してしまったから、営業職を手放して事務方に異動願いを出して、産休育休か。はたまた育休からの営業職に復帰できるか。辞めるという選択肢は今のとこないんだが、どうしたものかと考えながら、妊娠でやたらと眠い瞼に抗えず、ベッドでまどろむことにした。まだ時間は14時。妊娠してなくても眠くなる時間帯だ。レースのカーテンだけひいて薄雲の日差しが、柔らかく包んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!