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変化(12)
再び海岸線を走っている。
この先は表示された看板によると、港町だ。
港の横の大きな工場の駐車場に入って行く。
お、直売所がある。
「ここ?直売所に寄っていい?」
「はい。あ、前に取り寄せ品の試供品、甘露煮のパウチとか。持ち帰りましたよね。ここのです。気に入ったのあれば、買って来てください。今、あんまり売れすぎてネット販売は中止してるみたいなんです。ここに来ないと買えないんで。」
「甘露煮!思い出した。あれ美味しかったよね。じゃ、ちょっと見てくる。」
「はい。僕はこっちの事務所にいますから。」
「はーい。」
楡崎水産直売所という看板。
にれざき?
工場のスレートにはNIRESAKIとあった。
にれさきさんか。
直売所に入るとセンサーが反応したのか、来店を告げるメロディが流れたが、店員さんもお客さんもおらず、店内は色々な水産加工品が並べてあった。
俺の好きな小魚の甘露煮……あ、あった。
へー。
もらったやつはサンプル品だったから、なんにも書いてなくて何の魚だったのか知らなかったけど、イワシの甘露煮だったんだね。
結構、黒く煮詰まってたから、わかんなかったんだよ。
他にも缶詰とか色んな種類がいっぱいある。
「いらっしゃいませ。」
「あ、ども。」
買い物カゴに甘露煮をごっそりあるだけ入れてると、奥から店員さんらしき人が出てきた。
なんか色白で綺麗な男性。
黒のスラックスに薄緑の作業着のジャケット。
胸には楡崎水産の文字。
やっぱり店員さんなんだね。
他にも気になるヤツを数点入れて、レジに行く。
イワシの甘露煮が大半を占めてる。
おみやげに悠里さんとかに持って行こうと思ったし、うちでの消費……半端ないから。
「あ、甘露煮お好きなんですか?」
「えーと、はい。ごはんとまらなくなって困りますけど、家族みんな好きです。」
「ありがとうございます。あ、こっちのも……お試しにどうぞ。柚子の皮がアクセントに入ってて、美味しいですよ。新商品だったんですけど、もう一つしかなくて、奥に下げてたんですけど。」
バーコードの所に購入済のテープを貼って買い物袋に入れてくれた。
「え、いいんですか?」
「どうぞ、わざわざ直売所にいらしてくださったので、おまけです。」
「ありがとうございます。嬉しい。」
「こぉら!まて─────!……すいません!藍翔さん!店舗に行きました!捕まえて!」
買い物が終わる直前。
遠くで誰か叫んでる。
店内に小さい台風が入り込んできた。
コケるんじゃないかと思うくらいの、たどたどしい走り方でかわいい子が、俺の足にすがってきた。
「お?どうした?」
財布をしまい、小さい子を受け止める。
俺の顔を見てないけど、離すまいとすがって来るもんだから、小脇を抱えて抱っこした。
すると、ビタ─────っと首にすがりついて。
首、クビ、ぐえー絞まる!
「コラ!涼矢!お客さんに抱きつくな!」
「ふぇ?」
子供が変な声を出して、顔を上げた。
近くで見てもかわいい子。
キョロキョロして、それから俺を見た。
「どした?」
子供の顔を覗き込むと、こてんと俺の鎖骨の所に頭を寄せてきた。
かわええ。
「この子、ここのお子さんですか?」
店員さんに訊ねると、顔を赤くした店員さん。
「お客様すみません、私の息子です。」
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