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変化(16)
「ごめん!寝てた!」
「いいんですよ。ランチ食べ過ぎましたよね。」
「いや、悠斗くんも一緒だろ?運転眠くなったんじゃない?ごめんね。自分だけ寝て。ナビシートで寝るとか、最悪だよな。」
「寝顔とか、いいもの見せて貰いましたから……ドライブ終わりたくなくて、30分くらい遠回りしちゃいました。すみません。」
「俺もドライブ楽しかった。ずっとドライブしたいって思ってたけど、気持ちよくて寝ちゃった。」
車は山手の登り坂を、ゆるりゆるりとコーナーをいくつも抜けて行く。
コーナー毎にすごいタイヤ痕が付いてるから、たぶん夜中に公道バトルでもしてる峠道なのかな。
先の所に霊園への入口を報せる看板が出てきた。
あと200m先←
と出てる。
もう少し進むと100m、50mと看板が設置してあり、霊園←という看板の通りに左の道へ入ると、木々を抜けた先に、見晴らしの良い斜面に並ぶ墓石が目に入ってくる。
手前の広い駐車場に車を停めて、悠斗くんは後部座席から何やらゴソゴソと出している。
手に持っているのは、線香とローソク、そして墓花。
「……あれ。墓花なんて持って来てた?」
「通り道にあった花屋で買いました。」
「ごめん、全然気づいてなかった。」
「いいんです、ぐっすりでしたもんね。」
あちゃー。
これだから免許持ってない奴は……って思われそう。
寝すぎだろ、俺。
海からはだいぶ離れたけれど、眼下に広がる町はこぢんまりとして、高い建物もそんなにないから、海が一望できる。
「いいところだね。」
「ええ、祖父母達がこの霊園を気に入って、生前に自分達の墓を購入して作ったそうです。北條家の墓は、代々別のところにあったらしいんですけどね。全部引っ越して、ここにまとめて眠ってます。」
「へぇぇ。」
何段もある墓の列。
上から二段目の真ん中あたり。
二区画分を使って建ててある少し大きめのお墓。
そこが北條家のお墓になっていた。
駐車場からお墓に入るところで、バケツや柄杓、箒やちりとりを借りて、バケツには横の水道で水を汲み、墓の下へとたどり着いた。
お墓には真新しい花が活けてあり、線香の束がもう少しで全て灰になりそう程に燃え尽きかけていた。
今日……誰かがこの場所に、入れ違いで来ていたのだろう。
悠里さん達か、悠斗くんの兄弟か。
とりあえず墓はきれいなようなので、少し周りの方まで目を向けて、通路の草をむしった。
どこからか風で飛んできたゴミを拾い、そうしてるうちに燃え尽きた先客の線香の灰を綺麗にした後、墓花を追加して綺麗にバランスを取って飾り水を入れ、悠斗くんが持参した線香とローソクを設置して、二人で手を合わせた。
「今日って……命日だったの?」
「ええ、祖母……正しくは悠里を産んだ人の命日です。性別的にはオメガの男性です。」
「そうなんだ。」
「ええ、その後、最愛の人の葬儀を無事終えて、一週間後、アルファの祖父は後を追うように亡くなりました。眠ってる間に亡くなったようで、朝起こしに行ったら冷たくなっていたんです。平凡な公務員家庭でしたけど、運命の番でしたからそれはそれは仲のいい夫夫で。」
「……そうだったんだ。」
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