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変化(17)
線香の煙が太く白い筋を作り、くゆりながら高く空へと昇っていく。
願わくば……ここで眠る二人の今も、永遠に共にありますように。
そう願いを込めて深々と手を合わせた。
それから軽く自己紹介と、子供らが四人いること、悠斗くんとずっと一緒に居たいことを心の中で吐露し、あんまり出来たパートナーでないことを謝りつつ、できればこれからの俺らを見守って欲しいことを願った。
随分と長く願いすぎたかと心配になり……、ふと顔を上げると、俺のすることをじっと見つめて待っていた悠斗くんが、慈愛に満ちた顔になって見惚れるような微笑みを見せてくれた。
カッコよすぎるんだけど。
ドクドクという心臓の跳ねる音がうるさい。
すると、不意に肩を寄せられて俺は悠斗くんの腕の中に抱きしめられた。
少しずつ抱きしめた腕にチカラを込められる。
その加減が心地好くて、されるがままに揺さぶられている。
「優一さん。」
「うん。なに?」
「長生きしましょうね。」
「うん。」
「好きです。」
「うん。俺も。……好きだ。悠斗くんが俺を思うより……君が好きだ。」
「……たぶん、それ、間違ってます。」
「違わない。認識変えて。」
少し背伸びして、悠斗くんの頭を下に引き寄せて、唇を奪う。
掻き抱くように悠斗くんと抱き合っていたら、墓前というのになんだか頭の芯がボーっとしてきて、理性が飛びそうになってる。
その時遠くで車のエンジン音が聞こえた。
霊園の駐車場に一台乗り入れて来たようだ。
離れがたいけれど、片方の手だけ繋いだまま身体を離した。
悠斗くんは勢い良く身体を離したのだけど、俺が強く手を握ったまま、離さなかった。
その手を少しあげて、その腕についている腕時計を見る。
時刻は15:30
「……ヤバくない?もう15:30」
「ヤバくないです。」
「……こども園、迎え行かなきゃ。」
「大丈夫、うちの親に頼んでますから。」
「……でも帰んないと。」
「ごめんなさい。」
「なに?」
「宿、とりました。」
「……は?」
「……だって。」
「だって?」
「もうちょっと行きたいとこあるし、……それに。……二人でお泊まりしたかったんですもん。」
霊園を後にして、さっきのぼってきた山道を今度は下っていく。
したかったんですもん……て。
そんなんで子供置いて泊まるとか。
いいわけないと思うんだけど。
泊まりって言っても着替えもないし。
行きたいところってどこなのかな。
一度山道を下ってしまい、今度は山と並行に走っていく。
しばらくするとさっきの山道よりも緩い坂の、大きめの脇道へと入っていく。
目印のように、曲がり角に大きな桜の木が枝を伸ばしている。
季節になれば、相当立派な見ごたえのある花を咲かせるのだろう。
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