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変化(18)
なだらかな斜面を上っていくと、広い丘の上に出てきたのだが、凄く心地いい。
道路から外れて、丘の上の空き地に車を停める。
方角的には北側であろうところには、鬱蒼とまではないけれど、明るい林があって木漏れ日が見える。
南を向けば眼下に広がる町並みと、その先に海が見える。
もうここまで潮の香りはしないけれど、キラキラした静かな海が見えるだけでなんだか和む。
「ここ……どうですか?」
「気持ちのいいところだね。」
見渡す限りは広い空き地で、平らな土地が広がっている。
周りに民家はなく、何を見せたくてここに来たんだろうか。
「この場所。さっきの祖父母達の住んでた家が建ってた土地なんです。周りの土地も買い上げて、広くしたんですけどね。」
「うん。そうなんだ。」
「ここに家を建てようかと思って。」
「……家?」
「僕らの……家です。」
後部座席からタブレットを取り出して、図面を見せてくれた。
この何もない土地にタブレットを翳すとタブレットの中で、この土地に立体的に確認できる。
中の様子も見れる。
広いガレージもあるし、前面がガラス張りのオフィスみたいなのも併設されている。
イメージ映像に悠斗くんを映り込ませると建物の大きさがわかるけど、コレは結構な大きさだ。
確かにここは眺めもいいし、凄く心地いい。
けど……。
「学校とか、こども園とか、買い物とかはどぉ?便利も良くないと。」
「買い物はネットスーパーが配送可能です。あとは下の町に買いに行く事になりますね……ここら辺はかなり学校の範囲が広いので、スクールバスがあります。自転車で行ける距離ではあるんですけど、小高い丘の上ですから、行きは良い良い帰りは昇って来れないですからね。もちろんこども園、幼稚園もあります。どちらもバス通園か送迎にはなりますね。」
「……じゃあ悠斗くんがダメな時、俺は送迎出来ないから不便じゃない?」
「……お願いがあるんです。」
「何?」
「車の免許を取って欲しいんです。」
「……。」
「優一さんに免許があったら、ご自分で好きに動けるでしょう?僕は僕が運転してあげることに全然抵抗ないんですけど、優一さん、だいぶ引け目を感じてたみたいだし。でも基本僕がいる時は、僕が運転してあげたいんですけどね。」
「免許取りたいって思ってたの、知ってたんだ。」
「それと、僕の仕事場を併設したいんです。仕事場を併設すれば、通勤する必要ないし。」
「……ねぇ、事務員一人雇わない?」
「…事務ですか…ここまで来てもらうのは、どうなんですかね?下の町に住んでる人なら通いも出来るかもですけど、来る人いるかな。」
「……一人いる。面接してみてよ。社長サン。」
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