第13話……番の印をつけたなら

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番の印をつけたなら(7) 仕事帰り、マンションのエントランスでコンシェルジュの斎藤さんから、クリーニング上がりのスーツを受け取った。 本来なら玄関にクリーニング専用の受け渡しボックスがあるので、わざわざ受け取る必要はないんだけど。 先週仕事で得意先との食事会があり、ライトブラウンのスーツにロゼのワインをぶちまけられた。得意先の担当の山下課長とは仲良くさせて貰ってるんだが、その部下の人、佐山さんに嫌われている……らしい。今回のワインもかなりわざとらしく、佐山さんにぶちまけられた……んだと思う。あれわざとだよな?山下課長は気づいてなかったけどね。 その前にも、山下課長とのアポを佐山さんに取り持って貰ったはずが、そんなこと知らないとアポ自体を否定された。 まあ、次から山下課長と直接やり取りすりゃいいかと頭を切り替えた。 他にも色々あるが、佐山さんの優しそうな笑顔に、だいぶ騙されたのでじわじわメンタルやられてる。 佐山さんは俺と同じオメガ男性で、仲良くなれそうだと思っていたばっかりに尚更メンタルがぁ。 佐山さんは背は小さいものの、色白美肌のすごい美青年で、首輪もオシャレで個性的なデザインのものを首に巻き、普通に営業職してるよりよっぽどモデルの仕事とかが似合いそうな人。 周りにはホントに優しくて俺への仕打ちなんて本当にしそうにないから、そろそろ担当になって半年なんだけど未だに誰も信じて貰えないんだよね。 育休明けに引き継ぎをした加藤くんからも、課長も佐山さんも優しくていい方達ばかりと聞いていただけに、俺ってなんか知らないうちに悪い事したのかもしれない。 シミが消えるか不安ながらもクリーニングに出したのだが、キレイに消えましたよ。と帰りに会ったコンシェルジュの斎藤さんに微笑まれたので、早く仕上がりを確かめたいのもあり持ち帰る事にした。 明るい色のスーツの上下どこにもシミた跡はない。 さすがの仕上がり。ありがたい。 悠斗(はると)くんはスーツの替えなんてウォークインクローゼットに山ほど抱えてるが、俺のスーツは基本三着。あとはブラックフォーマルとカジュアルなジャケットがいくつか。 悠斗(はると)くんのいきつけの仕立て屋さんにスーツを作りに行こうと誘われるんだけど、仕事着くらいは自分の稼ぎで買うし、今のスーツで間に合ってるからね。 それでも最近佐山さん絡みでスーツを汚す事が頻繁にあり、クリーニングの回数も多くなってるから、三着フル稼働中。 クローゼットにクリーニング上がりのスーツを仕舞い込み、キッチンに立って夕飯の支度を始める。 今夜は和食ですよ。 肉じゃが、ほうれん草の白和え、蓮根のきんぴら。 きんぴらはピリ辛だから龍にはまだ出せないな。 あんまり上手くはないけどね。 一人暮らしが長かったから、まあ作れます。 あとはなんかあったかな。 冷蔵庫を漁る。 そうそう。 博多の辛子明太子! うちはいつも〇〇やの無着色マイルドの家庭用をお取り寄せしてる。ほんのり桜色の綺麗な明太子で、ただごはんにのせても美味いし、お茶漬けに足しても美味い!焼きタラコでも酒のあてにもいいし。 夕飯もそろそろ作り終える頃、元気よく悠斗(はると)くんと龍が帰ってきた。 「おかえり~。ごはんできてるよ。風呂入っといで。」 最近龍は、砂場遊びが楽しいらしく、かなりの率で砂だらけだ。 託児所はようやく移転して、認定こども園となり、広い園庭に大きな砂場が出来たから。 なので有無を言わさず、夕飯前に風呂だ。 悠斗(はると)くんもスーツを脱ぐと風呂場直行。 龍とデカい声でなんか歌ってる。 機嫌いいのかな。 ………………………………………… 「優一さん。」 「ん?お疲れ悠斗(はると)くん。」 「…またスーツ、クリーニング出してたんですか?」 「あー、斎藤さんに聞いたの?」 「急ぎも対応しますから、夜中でも気兼ねなく出して下さいって云われました。」 「ん…わかった。」 確かホテルのクリーニング事業部と提携してるとかで、24時間対応とかって言ってた気がする。 ソファでのんびり二人でそんな話をした。 ふわっと香るスパイシーな香りに、佐山さんの嫌がらせなんてどうでもよくなった。
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