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第14話……急変
急変(1)
深夜2時。眠れずにベッドサイドのデジタル表示を睨みつけていた。
入院した俺はかなり強く頭を打ち付けたのか、ガンガンする頭痛から意識を逸らそうと、再び目をつぶった。
悠斗くんは俺が目覚めて医師からの診察を受けてるのを見てから、龍のお迎えがあるので病院を後にした。
それから痛み止めの作用からか、暫く眠ったのだが、23時を回った頃に目が覚めてしまい、次第に脈打つようになった頭痛をやり過ごしながら悶々としていたのだ。
独り病院のベッドに寝ていると、ある感情が湧いてあふれる。
淋しい。
悠斗くんの匂いを嗅ぎたい。
ふと足元のパイプ椅子に悠斗くんの背広が掛けてある。
たぶん慌てて龍の迎えに行ったので、忘れて行ったのだろう。
何とかベッドから抜け出し、背広を手に取ると顔を埋めて深く息を吸い込んだ。
ふわりと香る残り香に、つい笑がこぼれる。
本来ならば来週だろうか、発情期がくる。
悠斗くんは相変わらず仕事が忙しいのに、俺の入院騒ぎで今日も仕事の邪魔をしてしまった。来週も数日間、番の発情期休暇を取らせてしまう。佐山さんからの虐めで心労さえも植え付けてしまった。俺はなんて悠斗くんに迷惑ばかりを掛けているんだろうか。
自分では、結構超ポジティブと思っているのに、偶にネガティブになる。
今夜はなんだか浮上出来そうにない。
サイドテーブルに置かれたスマホを手に取り、光量を最大限落とす操作をして、メッセージアプリをタップする。
悠斗くんはもう寝ているだろうか。
もう寝てるよね
心配かけてごめんね
淋しくなっちゃった
早く帰りたい
送信。
少し間があったもののすぐ既読がつき返信がきた。
まだ起きてたのですか?
頭痛は大丈夫ですか?
まだ痛いのならナースコールしてちゃんと対処して下さい!
うん大丈夫
すごいガンガンするけど笑
いや大丈夫じゃないですって
スタッフ呼んで対処して下さい!
わかった
スマホを置いて、目を瞑る。
脈を打つような鋭い痛みが続く。
痛みに耐えていると、パタパタと小走りの足音が聞こえ、見回りのスタッフがきた。
静かにスライドドアが開く。
「北條さんっ。大丈夫ですか?」
懐中電灯を片手にした看護スタッフが少し息を切らせて声をかけてきた。見回りじゃなくて、俺の部屋目指して来たのか?
我慢するつもりだったが、せっかく声をかけてくれたし、痛みが酷いことを訴えた。
看護スタッフの手が額に触れる。
医療手袋ごしの手が、ひんやりと感じられ、気持ちいい。
「北條さん、熱があるみたいですね。はかりましょうか。」
非接触型の体温計を取り出し、ピッとされた。
38.8℃
あったらしい。
「熱が高いですね。どこが痛みますか?」
「……うっ!」
鋭い吐き気がきて、ベッド横に嘔吐してしまった。
ビチビチと液体が床に跳ねる音が罪悪感を呼ぶ。
「す、みまっ……うっ。」
何も食べていないので胃液だけが更にあふれた。
逆流する胃液に喉が焼ける。
シーツを掴む手にチカラが入らない。
「大丈夫、全部出せるだけ出していいんですからね。」
トントンとえずきを促すように手を添えてくれる。
うわー寝ゲロとかないわー。
ごめんなさい、スタッフさん。
とか、どこか頭の片隅で考えている。
「先生呼びますから、大丈夫ですよ。」
そういうと、俺の背中を優しく擦りながら胸ポケットからガラケーを取り出し、急いで当直医と話をしている。
程なく、医師が現れ瞳孔反射を診られ、頭を持ち上げられる。意識を飛ばしそうになるのを必死に耐えた。
項部硬直だの、CTだのと医師と看護スタッフの声が、途切れ途切れに聞こえる。
「北條さん、北條さん?」
医師の声が聞こえたのは、ここまでだった。
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