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第15話……回復
回復(1)
リハビリは目覚めた夕刻の診察直後から既に始まっていた。
足を動かす、手を動かす、指を動かす。
なるべく早くからリハビリを始めると、治りが早い。筋力をつけるには、毎日動かすのがいい。
龍の顔を見せてくれたのも、記憶があるか、話は出来るか、そして早く治したいとの気力が出るようにとの配慮だったようだ。
佐山さんの件はしっかり警察が介入し、傷害罪で逮捕、後日起訴された。
個人として弁護士を通じ謝罪はなされたが、悠斗くん曰く、本人に謝罪の意思がないようなので、厳罰を求めてはと言われてしまった。
これに関しては最初に甘い態度をした悠斗くん自身の後悔がそう言わしめていると思っている。
俺としては、これから未来の俺達に近づかないでくれるならそれが一番だ。俺ら家族や会社関係への接近禁止の条件を飲めば厳罰を求めないこととした。
会社としても花山商事からの謝罪や見舞いが頻繁に来ていたようだが、悠斗くんが全て対処してくれて、病室を騒がせるようなことはなかった。
悠斗くんて、ホクトグループの第一企画部の社員って肩書きと思ってたんだけど、創立メンバーの一人で今も役員として在籍してるそうだ。
聞いてないよ。
知らないってコワイ。
花山商事からの見舞いは悠斗くんが断ったものの、ホクトグループのCEOの久米さんと外山さん(ほら、俺の一人暮らし時代の隣人だ。)は来ていただいた。この二人と悠斗くんの三人で起業してホクトグループを大きくしたなんて、その若さからも全く想像がつかない。
俺のベッド横で話してる三人は、大学生のようなキラキラした瞳でバカ話に花を咲かせている。
とてもいい関係で、羨ましく思う。
外山さんの話しぶりだと、悠斗くんは俺に何か謝らないといけないことがあるらしい。
気にはなるけど悠斗くんを信じてるし、悠斗くんの言いたいタイミングに任せるから、全然怒ってないよと言っておいた。
うちのパートナーはまだまだ謎多き旦那様だ。
俺なんて隠すようなものがなーんにもないつまらない男なのにな。
それと……産休、育休しても復帰した会社だが、退職することにした。
オメガの俺にも福利厚生のしっかりした本当にいい会社だったし、上司や同僚にも恵まれた。
名残は惜しいが、また一つ違ったステージに進もうと思う。これは悠斗くんとも相談して決めた。
今回の怪我で、発情期が狂ってしまった。
本来ならば入院中に発情期がきていたはずなのだが、心身共に気力を満たしていないと発情とはならない。
色々とくまなく身体を調べたが本当に何の後遺症もなく、リハビリ含め、目覚めてから一ヶ月で退院する事が出来た。
そうそう、ラッキーだった事もある。
当直医として、最初に病室に駆けつけてくれたのが、脳外科担当のエキスパートであったのも幸運の一因だと思う。
ゆるゆると頭痛の続いていた俺の症状は、くも膜下出血のそれとは違っていた。
深夜のあのタイミングで発症した病状を、見抜いてくれた先生にも感謝だ。
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