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明るい未来(5)
またもや前屈みで腰を丸めて、悠斗くんを見上げた。
何に気づいてるって?
何にも気づいてないんですけどー。
「優一さん!!陣痛きてますよコレ!」
「………………。」
「まだ本格的じゃないかもですけど、さっきからおなか張りまくりですよね?!コレもう絶対産まれますって!」
なんかいつもより饒舌で、少しお怒りモードの悠斗くん。
そういや、まぁ。
張ってるけど。
えぇー、俺が感じてないのになんで悠斗くん断定出来るんだよ!
俺的にはまだまだだと思う!
この時の俺は、クチを尖らせてフグみたいな顔をしてたと思う。
また歩く。
「腰は痛いんだけどね。陣痛かって言われると、わっかんないなー!」
龍の時の陣痛は、腹がギューって固くなって痛いヤツだったし。
腰が痛いのは、ずっと痛いから間隔を測れないし。
はぁぁぁぁぁぁっ!
うー。
腰痛い!
「優一さん、歩ける?もう抱いて帰ります!ここからだとうちが近いし、一回帰って入院セット持ってクルマで病院行きますよ!」
焦れてきたのか悠斗くん、抱いて帰る宣言!
いやいや、ないない!
「いやいや、大丈夫だから!まだ今からだと追い返されるって!」
恥ずかしいって!
抱きあげようとするから、身を捩って固辞する。
それでも一度抱き上げられてしまい、暴れて嫌がるとやっと降ろしてくれた。
暴れる方があぶない!って気づいたらしい。笑
なんか意地もあってか、張りが続いてるのはわかってるが、陣痛とは思いたくない俺は、抱っこを完全拒否し、歩いて帰ろうと心に決めた。
えっちらおっちら漸くマンションに着く。階段横のスロープの手すりを握り締めながらゆっくり歩く。
心做しか前屈みになってしまうから、それに気づくと背筋を伸ばしてなんでもない風を装う。
いや、装うと思う時点でもう語るに落ちるって感じだが。
自動ドアを抜け、エントランスを足早に抜けるつもりがそこでも立ち止まる。
コンシェルジュの斉藤さんが、おや?という顔でこちらを見る。
傍目からでもなんかおかしいってわかるのかな。
「おかえりなさいませ。大丈夫ですか?車椅子お出ししましょうか?」
「いえいえ滅相もないです!」
んなもん乗れるか!恥ずかしい。
悠斗くんが斉藤さん捕まえて、こそこそ耳打ちしてる。
「かしこまりました。何かありましたら遠慮なさらずに。」
「ありがとう。」
自宅の玄関に到着したのは既に12:42
途中頻繁に立ち止まったりしてたから、かなり時間が掛かってる。
はぁぁぁ。
丁度玄関に入ったと同時に腹が張る。
玄関の椅子に座り込む。
「さ!」
悠斗くんが、俺の靴を脱がしてくれる。
洗面台で手洗い、うがいしてリビングへ。
なだれ込む様にソファに沈み込む。
確かに腹は張ってるけど、まだまだヤバい感じはしない、と思う!腰が怠いだけだから!
龍の時と痛さの度合いがまだまだだから。
経産夫だから初産よりお産が早まる可能性はある……けれども。
ぅ……うんっ。
腕時計は12:52
さっきの張りからキッカリ10分。
その次の張りが12:57
ん?5分?
しかも少し……かなり痛い?
13:02
5分
13:07
やば。
5分間隔で定着してる。
「……悠斗くーん、やっぱり一応病院に電話するー!」
「それがいいですね!それと、これ。」
「あ、ありがと。」
麦茶が渡された。
歩いて汗かいたし、ぐびぐび飲んじゃう。
とりあえず病院に電話した。
北條優一、37週0日、経産夫。
今日の検診とスイミングの後に徒歩で帰宅中、張りが続いて、現在5分間隔。
『北條さん、先週の検診から子宮口2cm開大してるんですね。まだ予定日までありますけど、もう正期産だし一度来院したほうが安心かも。違ったら違ったでいいですから、来院してみましょ?来れる?』
男性スタッフさん。これ、新井さんだったかな。
たぶん電子カルテを見ながら電話に出てくれてるんだと思う。
「わかりました。今から向かいます。お手数お掛けします。」
『はーい、待ってますね。気をつけて!』
俺の電話を待って、悠斗くんが近づく。
「クルマ出します。」
「さっきは意地張ってごめん、ありがとう!」
悠斗くんがすごくいい笑顔で頭を撫でてくれる。
リュックからさっき使った、濡れた水着を取り出して貴重品を確認する。
ウォークインクローゼットの入口に置いてある入院セットも持ち、準備OK!
「ほら、靴の紐絞めますから座って。」
「ごめん、ありがと。」
荷物は悠斗くんが全部持ち、俺はスマホだけポケットに入れて、専用エレベーターに乗り込んだ。
地下駐車場は仄暗いし、少し階段が変則的にあるから1階で待つよう言われ、俺だけ1階で降りる。悠斗くんは地階の駐車場からクルマを出してくれる。
専用エレベーターから、ふらふらと一人で出てきた俺をコンシェルジュの斉藤さんが目敏く見つける。
「北條様、掴まって下さい!」
「あ、ありがとうございます。」
斉藤さんがさりげなくリードしてくれる。
自動ドアから外に出たところで斉藤さんに掴まりながら待ってると、地階から悠斗くんのクルマが出てきた。
助手席のドアを静かに開けて、斉藤さんがドアマンばりに俺をエスコートする。
足元の段差とクルマの上部を気にしてくれる。
「お気をつけて!」
「い、行ってきます。」
ふっ、ふぅー!
クルマで出ると病院までなんてあっという間で。
現在病院の受付済ませて、13:25
さっき歩いて帰って来た時間が~無駄~。笑
なんだったんだ~!
受付に行くと検診予約の人を差し置いて、先に診察室に通してくれた。
「北條さーん、ちょっと内診しましょっか?」
ジーンズと下着を脱いで内診台に座る。
回りながら足が開いて、恥ずかしい体勢になる。
悠斗くんも横に立って肩を撫でてくれる。
先生がカーテンの向こうに入って内診を始める。
グリっと指を回されチカラが入る!
「チカラ抜いてー!あーって長く息吐いて?」
「あーーーーーーーぅぅぅぅあぅっ!」
グチュグチュッと水っぽい音がする。
内診は何回しても慣れない。
「あ!」
先生が驚いたような声をあげ、パチンとゴム手袋を捨てて、内診台が戻っていく。
「お産始まってるっ!子宮口今6cm!」
「えー!まだそんな痛くないのに!こんなに初産と違うもんなんですか?」
「まぁ経産夫さんは開くの早いからね!スイミングした後歩いて帰ったんだって?歩いたから余計お産進んだのかもね。……あ!ごめーん中田さん!大至急!北條さんの入院の準備お願い!」
近くにいた男性スタッフさん…助産師さんらしい…中田さんが入院の案内をしてくれた。
歩きながら腹に手を当てて張り具合を確認してくれる。龍の時に比べると全然痛くはないんだが、きてる張りは結構いい感じらしい。
龍の時はあんなに痛くても子宮口が開かなかったのに。
通された部屋は広くて、書斎か執務室のような雰囲気。
天井が高く窓が広くて庇が深い。明るいのに光が抑えてある。
キングサイズのベッド。
なんか高そうなベッドだ。
龍の時も思ったけど、病院てパイプベッドじゃないんだ。
それに分娩台でもないし。
ここはトイレも風呂場もドアも広くて、広々して付き添いがいても余裕の造り。
中田さんから病院着を受け取り着替える。
薄い緑の入院着は、浴衣のように脇で合わせて紐で括る。
んーーーーーーーーーーぅぅぅぅ。
やはり5分間隔で陣痛がくる。
もう俺もこの張りが陣痛だって認めた。
中田さんが電子カルテを見ながら提案してくれる。
「北條さん、どうしたい?お風呂入る?旦那さんと一緒に入れるよ!それともゆっくり寝転ぶ?床がいいならマットか畳敷くし。揺り椅子とかバランスボールもある。なんでもいいよ。」
「うーんと腰が怠いから…お風呂がいいけど。」
「お風呂ねー。腰が痛いなら気持ちいいよ!」
すぐお風呂のドア脇にあるスイッチを押してくれる。
その前に内診させてねーとかって、有無を言わさず内診された。涙
6cm開大で変わらずだけど、子宮口がかなり柔らかいので全開まで早いかもと言われた。
「うわぁぁぁ気持ちいー。」
風呂は夫夫二人余裕のサイズで。
俺は全裸で悠斗くんに抱きついて一緒に入った。
はぁぁぁぁぁぁっ。
悠斗くんに抱きつくと温まった悠斗くんの身体から、フェロモンが香ってくる。
おちつくぅーーー。。。
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