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人間が雨のように降っている。僕は黒い傘を開き、そのまま黒い道を歩いた。平日の昼間、歩道には僕だけがいる。車道には木陰と人間の体液が黒々と混じり合っているだけで、あとは何もない。
たまには違う景色も見たい。僕は車道の真ん中を歩き、人が落ちる音を聞いた。僕にぶつからないのは傘を開いているからだ。
足下を見ると、ズボンの裾が濡れていた。体液のせいだろうか。喪服に血が着くと濡れているようにしか見えない。
気付けば僕は口ずさんでいた。むかし観た映画のワンシーンのように雨のなかを踊りたい気分だ。
僕が口ずさむと被せる音が聞こえた。振り返るとおかっぱの少女が一人で笑っていた。
彼女も僕同様、喪服を着て黒い傘を差している。
「ここは僕の夢だ。邪魔しないでくれ」
彼女は笑うのを止め、空洞の目で僕を見る。不思議そうな表情で僕に近寄った。
彼女は僕を眺め、奇妙なリズムでひとしきり笑った後、突然僕を突き飛ばした。
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