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 途中、女性が今いる場所と方角の確認のために木々の隙間から覗く空を見上げた。その時の、星の位置と星座の名称を口にする聞き慣れた声を思い出しながら、ぼくも無数の星で輝く空を注視した。 「真ん中を大きく横切るのが天の川で、その中で光り輝いているのがこと座のヴェガだよな」  その前方である東に視線を動かすと見える、白鳥座のデネブ。そこから左手方向、南に視線を動かすとわし座のアルタイル。有名な夏の大三角形と、少し離れた西の空でどの星よりも輝く、うしつかい座のアークトゥルス。  何年も前に見たものと変わることのない星たちを、今はもう聞くことのできない声とほんの少しだけ近くなった視界で確認してまた歩き始める。  やがて、正面から差し込む大きな光の塊を見つける。出口であるその光を抜けると、拓けた丘と月と星の海が出迎えてくれた。  そこは本日の目的地で、ぼくにとって大切なものがある場所だった。  地元民でも滅多に来ないような場所で、誰も来ないために変化することのない場所。ここは、とても大切な場所だ。  人生という、どんな生き物にも平等に与えられた時計の針が進んでしまわないように。
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